•  満面の笑み。
    〜夢うつつ〜




    夢に見るのは……

    溢れる光の中の屈託のない笑顔。
    あたたかで、やさしい笑顔。

    眩しくて。
    とても眩しくて。
    まっすぐに視線をむけることができそうにない。

    そして、苦しくて。
    とても苦しくて。
    息がつまりそうになる。

    何も約束することが出来ない俺を。
    何も与えてやることが出来ない俺を。

    おまえは何故、そんなふうに笑って見つめることが出来るのだろう?

    何も求めず。
    何も押し付けず。

    ひたすらに、裏のない笑顔でおまえは俺を見つめている。
    おまえの優しさを全身で感じているのに、俺はそんな風に見つめ返すことができなくて。
    胸がキリキリと軋んで、何故だか泣きたくなるのだ。

    俯くことしかできない俺にそっと伸ばされる腕。

    その腕が俺を抱きしめる。
    強張る俺の身体を抱きしめる。
    俺を包むやさしいぬくもり。
    首筋にかかる吐息。
    甘い囁き。
    掠めるような口吻けに浚われて………溺れていく。

    そんな夢を見る。

    だけど――――

    目覚めるとそこには誰もいなくて、何もない空っぽの空間だけが広がっている。
    確かにそこに在ったはずの存在を探して虚空を切る指先。
    だが、触れるものは実体のない空気ばかり。

    苦しくて。
    苦しくて。

    どうしていいのかわからなくなる。
    叫びだしたい衝動を堪え、ただ縋れるものを探して闇雲に伸ばされる指先。

    ふいに。
    あたたかな手のひらが、冷え切った俺の拳を包み込んだ。
    ぐっと。
    思いもよらない強さで、繋ぎ止めるように握られる。

    「――――――!?」

    見開いた俺の眸に飛び込んできたのは、夢で繰り返し見た笑顔。

    「ここにいます。俺はここにいますから……だから、泣かないでください。ね?」

    泣いてる? 誰が?
    俺?
    いや、それよりもこの声は。このぬくもりは…………

    これは―――夢の続き?
    それとも都合の良い幻?

    小刻みな震えが波紋のように全身に広がっていく。

    言葉を失ってしまった俺の歪む視界の向こうには、夢で見たままの笑顔があった。



    End