「ん? おまえ、何食ってんだ?」
湯上りの伊織が、開けたばかりの宅配の荷物の中から何かをつまんでいる大輔の元に歩み寄ってきた。
濡れた頭をプルプルと振って水滴を飛ばしている伊織に、大輔は一言で答える。
「イチゴ。おふくろが送ってきた」
伊織が風呂に入っている間に郷里の母親から届いたばかりのイチゴだ。
粒が大きく、綺麗なツヤを放っている。
「うまそー」
「食べる?」
「うん。食べる」
すぐ傍まで寄ってきてねだる伊織の口に、大輔はイチゴを一粒つまんで押しこんでやる。
先ほほど大輔が口に含んだイチゴは、甘くて美味しかった。
ところが……
「げッ、マズッ!」
咀嚼しておもいっきり顔を顰めた伊織に大輔は首を傾げる。
「俺が食ったのは美味かったぞ?」
まずい! を連呼する伊織は、もう一粒をつまみ取って口の中に放りこむ。
「やっぱり不味い!」
「?」
訝しげに自分を見やる大輔に、あ! と、何かを思い出したように伊織が眸を見開いた。
「俺、歯を磨いたばっかりなの忘れてた」
そりゃぁ、味なんてわからないだろうな、と大輔は呆れたように肩をすくめる。
「ウー、なんか損した気分」
「後でまた食えばいいじゃん」
「俺の分残しとけよ」
「あほ。独り占めするようなものじゃないだろ」
鼻を鳴らして立ち去ろうとする伊織の腕を大輔がつかむ。
「なに?」
ちょっとした悪戯心。
半分に割ったイチゴを口に含んでいた大輔は、腕を引いて引き寄せた伊織の唇を、唇でノックして開かせる。
いつものキスかとあっさりと唇を割った伊織に、口移しでイチゴを含ませた。
「……!!」
含まされた方はたまったものではない。
突然口の中に押し込まれたものを、反射的に咀嚼して呑みこんだ。
「……ちょっ、死ぬって!」
「イチゴで死ぬわけないだろ」
そんな自分を面白そうに見やる大輔に、してやられたような悔しさが募る。
「味は?」
人の悪い笑みを浮かべながら大輔が問う。
「知るかバカ!」
と言いつつも、熱を持った口の中に広がるイチゴの味は、ほのかに甘い。
そのまま伝えるのは何故か癪で。
真っ赤になって駆け去っていく伊織の背中に、お見通しだと言わんばかりの大輔の豪快な笑い声が響き渡った。
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