「ちょっと早く来すぎたかな」
手元の時計は約束の時間よりも15分ほど早い時刻を示している。
かと言って、ふらりと覗いてみたい店があるわけでもなく、カフェに腰を落ち着けて潰すほどの時間でもない。
結局ルークはその場で賢斗を待つことにした。
待ち合わせで女の子を待つことはよくあったけれども。
こうして青年男子を待つ自分というのが、なんだかとても新鮮だったりする。
既にこうして立っている自分に気付いた彼は、いったいどんな顔をするのだろうか?
嬉しそうに相好を崩すのか。それとも、慌てて駆け寄ってくるのか。
なんとなく後者のような気がすると、想いをめぐらせれば、自然と口元が緩む。
――――キミのことを考えながら過ごす時間がこんなに楽しいなんてね。
今まで知らなかった喜びがそこにはあった。
各々の速度で行き交う人の波。
それぞれがそれぞれの目的を持って歩いている。
けれども……
――――ここにいる人たちの中で、キミを待っているのはボクだけだ。
ちょっとした優越感が気持ちを高揚させる。
背筋を伸ばして視線を巡らせた横断歩道の向こう側。
赤信号で足を止めている人の群れの中に待ち人を見つけて、ルークは微笑んだ。
彼はまだ、自分に気づいていない。
信号が変わり、足早にこちらに向かってくる賢斗が、待ち合わせ場所に視線を向け、そこに立つルークに気づいた瞬間、驚いたような顔をして、慌てて駆け寄ってきた。
待ち合わせ時間にはまだ5分以上余裕がある。
それなのに、相手が先に来ていたというだけで、どこか申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。待たせました?」
息を弾ませる賢斗は、脚のラインが綺麗に見えるデニムにコーデュロイのジャケット。足元はがっしりとしたブーツ。Vネックのすっきりとしたインナーに、クロムハーツのチョーカーをあわせている。
気合が入り過ぎない程度に気を使った感じが、とても好感を持てる。
「大丈夫。まだ時間前だよ」
「っつか、なんでアナタが先に来てるんスか?」
変なプレッシャーかけるの、やめてくださいよ、と、零す賢斗に、ルークが大袈裟に肩をすくめてみせた。
「プレッシャーだなんて、心外だなぁ。ボクは今日のデート、とっても楽しみにしていたんだけど?」
些かい演技めいた口調で不服そうに言ってみせれば、いつになく素直に頭を下げた。
「すみません」
気落ちしたような賢斗の表情に、意地悪をするのもこのくらいでやめておこうと、ルークがにっこりと微笑んだ。
「謝ることないよ。それより行こうか。せっかくのキミとのデートの日だからね」
「はい」
デート、と言う言葉にわかりやすく表情を綻ばせた賢斗に、ルークの気分も高揚する。
そして、二人は肩を並べて歩き出した。
さすがに手をつないで歩くわけにはいかないけれども。
互いの体温を感じられるその距離に、胸が騒ぐ。
気持ちは手を繋いでいるかのようにより沿っていた。
今宵、ふたりで過ごす甘やかな時間。
オプションでホテルのルームキーが用意されていたかどうかは…………二人だけが知る秘め事。
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