•  ハッピーキッチン  
    〜賢斗×ルーク〜 





    「ちょっとは協力してくださいよ!」
    「なんで?」
    「なんで……って」
     そんなこと思いつきもしなかった、とでも言いたげな表情で返されて、俺は軽く絶句する。
    「食べたいって言ったの賢斗だよ?」
     確かに言った。
     言いましたとも。
     テレビで作っていたパエリアがとても美味そうだったから。
    「美味そうっスね」
     そう呟いた俺に、ルークはこう言ったのだ。
    「そういえば……昨日、ムール貝をもらったんだよ」
     誰かからムール貝をもらうようなつきあいなんて、したことないぞ、と思いつつ。
     うっかり、こう口にしてしまった。
    「いいタイミングっスね」
    「でしょ?他の材料も、ウチにあるものでなんとかなりそうなんじゃない?」
    「そうっスね」
    「じゃあ、作ってみる?」
    「え、でも俺作ったことないっスよ」
    「大丈夫。レシピはネットから取り出せばいいんだし」
    「じゃあ、なんとかなりますかね」
    「うん。じゃあ、よろしく」
    「はい!」
     …………って、え?俺??
     そんな会話の流れで。
     何故か俺はキッチンでパエリアと悪戦苦闘していて、ルークはソファーでゆったりとくつろいでいる。
     意味がわからない。
     だいたい俺は食べたいって言ったんであって、作りたいって言ったわけじゃないっつーの。
     そんな心の声がうっかり唇から零れてしまったらしい。
    「なんか言った?」
     ルークが声をかけてくる。
    「別にっ!」
     畜生。
     こうなったら、ルークを唸らせるほどの美味いパエリアを作ってやる、と。
     妙な対抗心を燃やした瞬間、もしかして俺はルークの思惑通りにのせられたんじゃねーの?ということに思い至ってみたけれども。
     ま、いっか。
     美味い飯にありつけるに越したことはない。
     ルークはきっと、とっておきのワインをあけてくれるだろう。
     酔いが回っていい雰囲気になったら、別の意味で美味しい時間にありつけるに違いない。
     我ながら単純だと思いながら――――俺はパエリア作りに没頭する。
     それも、一緒に食卓を囲んでくれる人がいるからこそ………だ。








    End