近所のコンビニまでフラリと歩いて行ったある日の午後。
ついでに髪でも切ろうかと、そのままコンビニから3件隣りの理容室に立ち寄った。
カットもほぼ終わるという時になってポツポツと窓ガラスを叩き始めた雨。
あいにく、窓は大輔の位置からは死角になっており、にぎやかなBGMとドライヤーの轟音に小降りの雨音はかき消されて届かない。
きちんとセットされた髪に満足して代金を支払おうと財布を手にした大輔は、何気なく視線を向けた窓の外の雨にようやく気づいて思わず声をあげた。
「あーー!!」
何事かと言う視線を向ける店員に意味不明の愛想笑いを残した大輔は、雨の中を脱兎の如く駆け出した。
―――――久々に布団を干した日に限ってコレだ……
もはや手遅れの感がなきにしもあらずだが、一分でも早く取りこみたいと思うのは人間の常だ。
ところが………
「何だ? これは」
雨に急かされて戻った部屋の惨状を見た瞬間の大輔の第一声だ。
床の上には、取りこんだ、と言うよりは、ぶんなげた、と言った方がよさそうな状態の布団がそこかしこに散乱している。幸い、雨に濡れてはいないようだ。そのことに安堵はしたものの、大輔は訝しげに眉を寄せた。
「どうなっているんだ?」
辺りを見まわしてみても肝心の人の気配は感じられない。
だが、ベランダに干していたはずの布団が室内に移動しているということは、留守中、誰かがこの部屋を訪れたということだ。思い当たる人物は一人しかおらず、彼なら思いつきで訪れて気まぐれで帰ったとしても納得がいく。
「しかし、もう少しキレイに置けないモンかね、アイツは……」
苦笑した大輔は、侵入者の散らかした後始末をするべく、手近な布団から手繰っていく。次の瞬間、少し厚めの布団の間から覗いた人間の手首に喉もとまで出かかった悲鳴を呑み込んだ。
が、手首だけが布団の間に落ちているはずもなく、そろそろと近づいてその手首の先を確認した大輔は、思い通りのモノを見つけて小さく笑った。
「勘弁してくれよ」
そこには、布団の間にすっぽりと挟まって静かな寝息をたてている伊織がいた。
ふかふかの太陽の匂いに抱かれて、ぐっすりと寝入っている。
「なにやってんだ、コイツ」
よほど気を許して眠っていることは、大輔の気配に気づくことなく、無心に眠りをむさぼっている様からも伺うことが出きる。
「俺が泥棒だったら、どうするんだよ? おまえ」
その頬を軽くつついた大輔は、なんとも微笑ましいその光景に、散乱した布団を片付ける手を中断し、伊織のすぐ傍らにそっと腰を下ろした。
起こすのは忍びない。
穏やかで優しい時間が流れていく。
窓を叩く雨音に誘われ、いつしか大輔も、心地よい眠りへと誘われていった。
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