•  月の真下 
    〜永瀬×初野〜 







     情後の躯をうつ伏せに横たえて、満足そうな吐息を吐き出した初野の背中に唇を落とした永瀬が、背骨のラインを指先で辿る。
    「……んっ―――」
     ぴくりと躯を震わせた初野が抗議の意味を含め、くるりと躰を反転させて軽く蹴りつけてきた踵を捉え、足先にも唇を寄せる。
    「ちょっ…!!」
     抗う初野の足首をがっちりと掴んだ永瀬は、めったに凝視することのない爪先をじっと見つめて言った。
    「足の爪、切ってあげようか?」
    「は?」
    「いや、なんか伸びてるなぁ、と思って」
     突然どうした? と思いながらも、 初野がからかうように言った。
    「野郎の足の爪、切りたい?」
    「切りたい」
     真顔で応じられて笑いながら言葉を返す。
    「ばーか。蛇出てきたらどうすんだよ」
    「蛇?何それ」
    「知らないのかよ? 夜中に爪切ると蛇が出てくるんだぜ?」
     得意げな初野の台詞に、永瀬が小さく笑った。
     言い伝えがふたつ、混ざってしまっているような気がするけれども。
     それは今はどうでもいいことだ。
     勘違いを突っ込む代わりに、初野の踝に軽く歯を立てて、永瀬は嘯いた。
    「そんな迷信、本気で信じてるワケじゃないくせに」
     んっ、と、擽ったそうに身を捩った初野が、「出てきたらどうすんだよ!?」と憎まれ口を叩く。
    「そしたら俺が捕まえて喰っちまいますよ」
     その答えに 初野が声を立てて笑う。
    「それ、リアルに想像できるからやめろって」
     流し目で寄越された視線に含まれた艶と軽口のそぐわなさが、永瀬の中で鎮まりかけていた情欲に火をつける。
     この人は、どうしてこうも簡単に、自分を煽ることができるのだろう?
    「なら……初野さん、喰っていいスか?」
    「まだ足りないのかよ」
     誘うようにゆるく開かれた脚。
     奥はまだしっとりと濡れている。
     永瀬の眸が獰猛な光を帯びた。
    「全然」
    「ケダモノ」
     クスクスと笑いながら永瀬の首に腕を廻した初野は、その唇に口接け、しっとりと舌を絡めていく。
     その心地よさに抗う術はない。
     音のない夜。
     月が隠れてしまうまでは、恋人たちの甘やかな時間。






    End