『日々の習慣』は何かと問われたら?
帰ってすぐのうがい手洗い。
食事のあとの歯磨き。
こまめな水分補給。
毎日の入浴。
大輔とのキス。
「ちょっと待て」
「?」
指折り数えていた伊織を遮って、大輔が物申す。
「ンなもん、習慣とか言うな!」
情緒ないやつやなぁ……とブツブツ文句を言う大輔に、伊織は感心したように瞠目する。
「おまえの口から情緒って言葉が出てくるとは思わなかった」
「失礼なヤツだな。キスを習慣とか言うヤツの方がよっぽど情緒ないわ」
憤慨する大輔に、甘えるような表情を作った伊織が、芝居がかった素振りでしなだれかかる。
「なんでわかってくれないんだよ?いつだってべたべたしたいっていう、俺の気持ちの表れじゃん」
「何オトメチックなこと言ってんだよ」
あほか、と、一刀両断に切り捨てられ、不服そうに唇を尖らせた。
「じゃ、おまえだったらなんて言うの?俺とのキス」
些か挑戦的に胸を反らした伊織への返答は電光石火の如く早かった。
「衝動」
迷いなく言いきった大輔に、まっすぐに見つめられ…………その眸の強さに、伊織の頬が一瞬で赤く染まる。
予想外の反応に、大輔は笑いを噛み殺した。
「おまえ、何赤くなってんだよ。こっちが照れるわ」
「なってない!」
「耳まで赤いっつーの」
「気のせいだ!」
ムキになって怒鳴り返し、逃げるように大輔の傍から離れようとした伊織の華奢な躯を腕の中に抱きこんで。
「――――!!」
真っ赤になった耳朶に噛み付くように口吻けた。
「ひゃっ?!」と裏返った声をあげた伊織が悔しさと恥ずかしさでますます顔を赤らめて叫ぶ。
「何すんだよ!」
「好きだよ」
「あほ!!」
「ホントだって?」
「知ってるわ!」
誰が聞いても惚気にしか聞こえない台詞に、大輔の目尻が下がる。
「……いや、ってゆーか、その……」
もはや伊織の口からはまともな言葉がでてこない。
「べたべたしたいんだろ?」
「んっっっ――――」
身から出た錆。
文字通り、衝動に駆られるままの情熱的な口吻けからなだれ込んだ情事に、伊織は翻弄されるのだった。
|