なんで結婚するなら一人って決めないといけないのかなぁ? もったいないじゃん。
だったら俺は、一夫多妻制がいいよ。
その心は…………
「そう言っておけばずっと結婚しなくても誰も変に思わないだろ?」
真顔で言う伊織に、大輔は呆れたような顔をむける。
「そう言ってる時点で十分おかしいっつーの。どんな気の回し方してんだよ?」
「俺にしてはメッチャいいアイディアだと思うんだけどなぁ……」
妙案を全否定され、納得がいかないと、伊織がブツブツとこぼす。
「おまえ馬鹿? それ、あっちこっちで言うなよ。人格疑われるからな!」
そもそも、一夫多妻制なんて日本人は理解できないっつーの、と言われ、なんとなくおもしろくない伊織は唇を尖らせる。
「だって、俺が本当のこと言ったら困るの大輔じゃん」
困らせるつもりで口にした言葉に、だが大輔は動じることなくきっぱりと言ってのけた。
「困らないよ」
「え?」
むしろ、面食らったのは伊織の方で。
「本当に? 全然困らない?」
しどろもどろに問い返す。
「ああ。これっぽっちも困らない。そもそも、俺らどんだけの年数一緒にいると思ってるんだよ? それこそ小学生のころからだろ? いまさらつきあってますって宣言したところで、ネタだと思われるのがオチだっつーの」
これはこれで何か突っ込むべきところなのだろうけれども。
なるほど、と、伊織は素直に納得する。
「やっぱおまえ、オトコマエだなぁ」
感心したように言う伊織に、大輔は苦笑した。
「そんなこと言うのはおまえだけよ」
「あたりまえだ。 俺以外に言わせたら許さないよ」
わはははは、と、豪快に笑う大輔を、伊織がムッとしたような表情で睨みつける。
「何がおかしいんだよ?」
「いや、そんなふうに言われるのも、なんか悪くないなーって思って」
「―――――アホ」
なに真に受けてるんだよ、と、照れくささをごまかすためにそっけなく呟いた伊織に、大輔は意地悪く尋ねる。
「照れてますか? 伊織さん」
「照れてない」
とはいえ、自分の心境など見透かされてしまっていることは明白で。
伊織は落ち着きなく視線を外してしまう。
「わかった。じゃあ、10年後に何で結婚しないんですか? って誰かに聞かれたら、おまえがいるからって宣言してやるよ」
何がわかったのかはよくわからないが、言っている本人は至ってご満悦だ。
「みんな引くっつーの」
「そ?」
俺はむしろ公言してまわりたいけどなぁ、と、残念そうに言う大輔は、馬鹿じゃねーの? と、呆れたように呟く伊織を腕の中に抱きしめた。
珍しく甘えてくる大輔に、伊織は過った疑問を口にする。
「まさかと思うけど。おまえ、俺と結婚したいのか?」
「んーー。形式はどうでもいいかな。ただ、おまえと一緒にいられたら、それでいいよ」
気負いなく言われた言葉に、伊織の貌にやさしい笑みが広がった。
「ずっと一緒にいるよ」
いまさら、離れられるわけがない。
恭しく交わす口吻けは、約束の証。
ずっと、ずっと。
ずっと、一緒に――――――
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