ふわり、と。
開け放した窓から風が舞い込んできた。
クリーム色のカーテンが、風にそよいでひらりと揺れる。
その風に誘われるように。
顔に降りかかる癖のある髪が軽やかに揺らいだ。
見れば、伏せられた睫までが微かに揺れている。
そう。
まるで、瞬きをしているかのように。
わかっている。
わかっているけれども………
もしかして、と逸る鼓動を止めることはできない。
その瞬間を夢見てしまいそうになる。
その眸が静かに開かれる瞬間を。
黒目がちな澄んだ眸が見開かれるその瞬間を。
けれども………
夢は幻。
風が通り過ぎたその部屋には、再び静寂が訪れる。
水底のような静寂が。
ぴたり、とカーテンが動きを止めた室内で、彼はこぼれそうな溜息を飲み込んだ。
これが現実。
そっと絡めた指先に力を込める。
握り返す力はないけれども。
伝わるぬくもりに泣きたくなる。
触れ合うその部分から、想いのありったけを流し込むように願いつづけた。
どうか。
どうかこの声が。
この想いが。すべてが。
その心に響いてくれと、切に願いながら。
この身も、この心も、なにもかも、すべて。
この指先から分け与えることでその眸が開くのなら、ぜんぶ、あげるから。
だから、どうか。
どうか、聞き届けて欲しい。
この願いを、叶えて欲しい。
――――ここにいる。
俺はここにいる。
だから早く………
戻ってこいよ。
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