「いや、夢にしちゃあほみたいじゃない?」
「まあ、そんなの、今時ドラマでもでてこなくない?」
濃厚なラブシーンのような言葉が散りばめられた濃い、とっても濃い夢をみた。
あまりにもばかばかしくて、つい昼ごはんを食べる友達に吐き出してみた。
「口付けて抱いてくれってさぁ、誰がどこでどのシチュで言うわけ?」
「そうだよねぇ、やっぱちょっとその手のマンガっぽいよねー」
姉が、もっていたきらきらした男女がどんと描かれたマンガを思い出す。
きっと、ああいうものの中になら似合う状況があるのかもしれない。
一度も読んだことがないから知らないけど。
「その手の読まないし、小説も殺伐とした推理小説ばっかだし」
さらにいえばドラマも映画も恋愛モノは見ない主義だ。
別に、嫌いというわけじゃないけれど、私には理解ができそうもないから遠慮しているだけだ。
その私が、あんな濃い顔の男とこんなやりとりをする夢をみるだなんて想像もできない。
想像ができないのが夢なのだ、といわれてしまえばおしまいだけど。
「あ、でも、最後私殺されたわ、そういえば」
「……あんたってどこまでいっても色っぽくなれないんだねぇ」
ぼんやりとした夢の続きを思い出し、箸をとめる。
妙にそこの部分だけが生々しくてぞくりと背筋が寒くなる。
急に黙りこくった私に、友達が声をかける。
「まあ、夢だし」
ぼんやりと箸の先を見つめていた視線を友達へと戻す。
「夢だし」
何かを納得させるかのようにその言葉を飲み込む。
セミの声や周りの話し声、それらが一気に流れ込むようにして現実へと引き戻される。
いつものように一番大好きなおかずを口へ運ぶ。
様子が戻った私に、友達は他愛のない会話を提供してくれた。
その夢が、ただの夢じゃなかったことを思い知らされたのは一週間後。
日々鮮明になっていく「夢」に悩まされ続けた挙句、きらきらした濃い顔の男と「再会」してしまったことによって発覚することとなった。
再録:8.28.2019/08.31.2017