07 - やさしくとけた

 元彼のSNSなんて検索するもんじゃない。
ずらっと並んだ家族写真を目の当たりにして、わたしはばかみたいに落ち込んでしまった。

「となり、いい?」

大学の授業で、ぽっかりと空いていた私の隣の席に声をかけて座った彼。
その声になんとなくひかれ、いつのまにか視線は彼をおいかけるようになっていった。
そうなってしまったら、自分が「恋に落ちた」ことを自覚することは時間の問題で、自覚したらしたでぎこちなく彼を追っていた。 その気持ちに気がついたのか偶然なのか。
私と彼はいつのまにか「彼女と彼氏」と呼ばれる間柄になっていた。


思い出はあくまで甘酸っぱくて、くすぐったくて。
嫌な思いもたくさんしたはずなのに、それらの記憶はおぼろげで。
そんな勢いで検索をした彼は、やっぱり結婚していた。
私の知らない女性と、もちろん私の知らない子供たち。
彼女の場所に、私が座ることは想像できないのに、でも少し落ち込む。
よくわからない感情がごった煮になって、しばし画面を片手に固まっていた。

「どうしたの?」

肩を軽くたたかれ、ここが仕事場だということを思い出す。
もうすぐ休憩時間が終わりそうな時計の針を見上げ、曖昧に笑っておく。
すべてを閉じて、バッグに放り込む。
目立たないように深呼吸をして、もう一度バッグを引っ張り出す。
乱雑に物が入ったバッグの中に手を突っ込んで、アメが入った小さなポーチを取り出す。
気分転換用に常備しているそれを一つ口の中へと放り込む。
甘い、蜂蜜の香りが鼻に抜け、そしてじんわりと溶けて行った。
一つ伸びをして、時計を確認する。
感傷はどこかへと消えていく。
何か、一つの区切りがついたのかもしれない。



再録:8.28.2019/:08.31.2017

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