33 - 星の巡りを指さして

「は?あっち?」

顔だけは上等で、口が恐ろしいほど悪い聖女と呼ばれる女に聞き返される。
自分は、彼女の護衛騎士で、彼女は守るべき聖女という尊い立場。
だけどたまに、こいつをぶちのめしたい、という衝動に駆られる。


彼女は、平民で、どちらかといえば治安の悪い下町の育ち。
そこで酒場の歌姫、ともてはやされた女の子供が彼女だ。
輝く銀の髪に、神秘的なの濃い紫の瞳。
ただそれだけで、かしづく人間があまたもいるだろう。
自分は、その中には入らない自信があるのだけれど。


彼女がどうやって教会に取り立てられたのかは知らない。
けれども、その圧倒的な聖なる力で、そして時には暴力ともなりうる美貌で、いつのまにかのしあがっていた。
そして最高権力者である、時の最高位の巫女によってもたらされた「悪しき」ものの討伐に、最も若く最も力のある聖女である彼女と、 神殿騎士の中ではうぬぼれではないけれど、力のある自分が選ばれた。
嫌な感情を隠しもせずに、彼女はその命令を受け、自分はただそれに従った。
下賎だけれども、力はある彼女に苦労させられるかもしれない、そんな自分の心配は杞憂だった。
が、それ以上に彼女はかなり明け透けで、教会内部への不満を隠そうともしない。
その悪いものなど何も口にしたことも、もたらしたこともない、ような唇から吐き出されるそれらは、かなり辛らつだ。
最初のうちはそれに反発し、いちいち彼女に言い返してはいた。
村人に裏切られ、領主の衛兵に彼女が言い寄られ、そしてどこぞかお偉い教会関係者に彼女が物理的に言い寄られたあたりからは、反論することにすら億劫となった。
だからもう、自分と彼女はすでに横柄な口を聞きあい、反発し、それでもなんとか一緒に過ごすようになっている。


「まあ、そういところは、あんた当たってるしねぇ」

騎士、の本文ではないけれども、自分は多少の星読みができる。 母方の家系がそれで、本格的に習ったわけではないけれども、それは習慣づいて口につくほど自分の中では日常に浸透している。
彼女も野生の勘があるところから、自分の浅い星読みと、彼女の勘で、悪いことになったことはない。
そこがたとえ敵陣真っ只中だとしても、彼女は自分のそれを信用してくれている。

「じゃ、いくぞー」

気の抜けた掛け声で、自分たちは進んでいく。
それがたとえ悪しき者たちの巣窟であろうとも、適当な聖女である彼女となら、どうにかなるのだと信じながら。



update:04.13.2024/再掲載:05.31.2024




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