24 - じっとり

 好きな人ができた。
ということにしておく。


 私は、自分の造作はそこそこだと思っている。
そう、そこそこ。
かわいい、といえばかわいくて、そうでもない、といえばそうでもない。
それは私との距離だったり、心理的思いだったりで違ってくるのだろう。
だから、かわいいと思われる仕草をして、言葉遣いを変えて。努力して努力して、ようやく私は中の上、といった評価を得られる女だと自覚している。
素で、何の努力もしないで魅力的な人はたくさんいる。
そう、先輩の彼女みたいな。



 最初に先輩を見て、どこにでもいる、私と同じぐらいの男だと思った。
平凡で、その平凡だということにも自覚をしていて、だけどちょっとだけそれに不満を抱いている。
自分は、周囲の人間とは少しだけ違うのではないか。
そんな思いをちょっとだけ。
それを敏感に感じ取って、私は彼のことを観察することにした。
引っかかってもおもしろくない男ほどひっかかり、私の周りにはいつのまにか少しだけ集団ができていた。
それを、所謂ハイスペックな男たちが距離を置いて見守っている。
勉強は努力してそこそこ、だけど、そいういったことだけは感じ取れる自分は、いつものような状態に陥った自分を、冷静に見ていた。


 そういう状況の打破は、意外とあっけなく転がり込んでいた。
恋人とうまくいっていないのか、何か不満があるのか、先輩が私が勧めるお酒をするすると飲み始めた。
あっというまに彼の許容範囲を超え、酔っていない、という立派な酔っ払いが出来上がった。
先輩のことを真剣に思う友人などいないのか、あっけなく彼の世話は私にまかされ、私は彼を自陣へと引き込むことができた。
あとは、そう、あたりまえのことだ。
準備なんかなくて、あったとしても、彼は無防備に私の横に転がる。
すべてが終わって、私はためいきをつく。
こんな風に、彼と過ごすつもりじゃなかった、だなんて、それでも反省めいた思いを少しだけ抱きながら。

その後は。時間がかかっただけで、思い通りに進んでいった。
私に従う男の子たちと、遠巻きにする周囲。
徐々に縮められていく先輩との距離。
そして物理的な証拠。
私は、あの素で魅力的な先輩の彼女に勝つことができた。
そう、思っていた。


所謂両家のあいさつだったり、結婚式だったり、披露宴だったり。
そういう「あたりまえ」のことをこなして、私は立派に彼の奥さんとなった。
ちゃんと、二人の間にはあの時の子供がいて、私は幸せだ。
幸せ、なんだ。
言い聞かせる。
死んだような目をして、私の方など見もしない夫と。
夫に似ていない女の子。
友達の中でも誰よりも早く結婚して、夫はそこそこの会社に勤めていた。
みんなが憧れる式場で式を挙げて、可愛い女の子がいて。
片付けてもちっとも片付かない部屋を、しぶしぶと片付けていく。
ようやく幼稚園に通い始めた娘に、ほっと一息をつく。
ふいに、視線を上げた先に私が映っていた。
それは、よく知る女で、けれども思った以上にくたびれた女だった。
じっと、彼女を見つめ、私は視線を逸らす。
私は、幸せなんだから。



update:10.28.2023/ 再録:12.01.2023






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