23 - 現実逃避

 僕は君のことが好きで、君は僕のことが好きで。
それは変わらない事実。
ずっと、ずっと、そんなことが続いていく。
そう思って、いたんだ。
けど。


 新歓コンパでうっかり飲みすぎて、どこか彼女に似た新人の女の子と一緒に会話をしていた。
ということまでは覚えている。
だけど、気が付いたら下手な言い訳だけど知らない部屋で、そして、その新人の女の子が裸で隣に寝ていた。
どう考えても、僕と彼女の間に何もなかっただなんて言えない。
言い訳すら言えずに、僕はただ何の痕跡も残さないように必死で何もかもをかき集めて逃げ出した。
それですべては終わった、そう思っていた。



「先輩……」

ねっとりとした視線を隠そうともせず、僕のまわりをウロチョロする彼女は、いつのまにか僕なんかよりもずっとモテる仲間たちの中で、近寄ってはいけない女の子ワーストワンに輝いていた。
だからもてるのか、もてるからそうなのか、彼らはそういったものを見分ける目をもっている。
僕は、今の彼女と付き合えたのが奇跡で、世間一般ではスペックはいいのだけれど、ここには僕以上の男などはいて捨てるほどいる。
そんな中、新人の子が近寄ったのは、僕がどう考えてもちょろかったからだろう。
そんなこと、今だったらしっかりと分析できる。
でも、現実はいつだってやらかしたことをなかったことにはしてくれない。


逃げ回って、逃げ回って。
できるだけ二人きりになどならないようにして。
けれども彼女はじわじわと距離を詰めてくる。
最初は、彼女の同級生のいくらかが、彼女に加担する。
そして、僕同様ちょろい男たちが彼女に陥落していく。
そこでもやっぱり、もてる男たちは我関せずで、彼女とはほどよい距離をとっている。
少しだけ、彼女も、僕よりはるかにいい男たちに近寄ろう、という気配はあったものの、あっという間にそれを撤回して、今この状態だ。
僕は、彼女に手を出して、捨て置いた男として有名になってしまった。
そんなことをして、彼女にメリットはあるのか、と思うけれども。



「あの、先輩」

そしてもう幾度目かの、いや、もう数えきれないほどの見上げた視線で、彼女は僕の前に立ちふさがる。
その続きを聞いてはいけないような気がして、やっぱり僕は逃げ出そうとする。
けど、その日の彼女は少しだけ口角をあげ、どこか挑戦的な笑顔を作る。
いつもの彼女で、けれどもどこか違って。
とらわれてしまった僕に、彼女は耳元でささやく。
その言葉に、僕は何も考えられなくなってしまった。



 卒業して、僕は新人だった彼女と結婚した。
彼女の夢だった、という披露宴をあげた。
そこには、僕にはちっとも似ていない、女の子が抱かれている。
たった一回、その一回で、僕は父親になった、らしい。
その実感はないし、どうしてこの場に僕は彼女のとなりにたたないといけないのかと、今もちょっと、いやだいぶ思っているけど。
付き合っていた彼女は、色々ばれてあっけなくふられた。
好きで好きで、本当に好きで。
どうして、とか、なんで、とか。 ぐるぐるとそんな言葉ばかり浮かび、披露宴だというのにちっとも笑顔は浮かんでこない。


けど、僕は。
消えてしまいたい、という思いだけは飲み込んで、それでもやっぱり、僕は逃げ出したい思いは消せはしない。



お題配布元→capriccio
再録:12.01.2023
/update:10.28.2023




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