21 - 飴玉ひとつ

「はい、あげる」

それだけを告げて、興味を失った彼女は走り去っていった。
残されたボクは、それを握りしめて。

それが初恋だったのだと、気が付いたのはだいぶたった後だった。



「ねぇ」
「……」

腐れ縁ともいえる香奈がまとわりついてくる。
異性の幼馴染といっても甘酸っぱいことなど何もなく、ただなんとなく一緒にいた時間が多い、といった程度。
だからといって、ボクが何も思わなかったかといえば、それは嘘になる。
こうやって、なんの裏も意図もなく近づいてくる彼女に嫌な気持ちはいだかない。
ちょっと、いや、だいぶむなしくはなるけど。
ボクの周りをちょろちょろする彼女は、たいてい恋人にふられたときだ。
かわいい顔と、どちらかというと軽い性格。
その二つに若さが加われば、もてないほうがおかしい。
香奈のことをどう思うかは知らないけれど、まあ、割と軽い感じで彼女の周りには男が常に途切れない。
あまりにも能天気すぎてふられることも多くて、今こうやってただの幼馴染の僕にまとわりつくことも多いのだけれど。

「で?」

学校すら違い、まあ、住んでいる場所は変わらず隣ではあるけど、積極的にかかわらなければ接点があるはずはない。
そもそも異性というのは、何か意図がなければ交流は難しい、と思う。

「なんか冷たくない?」

どこからか取り出したスナック菓子を食べながら、香奈が文句を言う。
その顔はさほど本気で言っているわけではなく、いつもの軽口だろう。
ちょっとうっとうしくて、けれども嫌じゃなくて。
結局、ふられるたびに自分にまとわりついてくる香奈を突き放すことはできない。
その気持ちがどこからくるのかも、ようやく最近自覚した。

「うるせーよ、どうせふられて暇なんだろ?」
「えー、なんかちょっと扱い悪くない?」

いつものやり取りを繰り返し、どこかほっとする。
ふらふらとあちこちに飛び回っても、結局自分のところに帰ってきてくれる、という安心感。
なんの根拠もないのに。
でも。

「あーーーー、映画でもいくか?」
「いくいく、あんたのくせに気が利くじゃん」

偏差値はかわいいけれど、こう見えてこいつは割と難しい映画が好きだ。
その感想なんかはいっぱしなもので、真面目なふりをして割とおバカな自分は、少しだけ感心している。

「まあいいや、あとから時間連絡するし」
「おー、あとでなー」

自分たちの家が見え、そんな声をかける。
ただの幼馴染で、単なる友人で。
自分たちはそんな挨拶を交わしてそれぞれの家へと帰っていく。

飴玉一つで恋に落ちた。
今もボクは、その気持ちを持て余している。



お題配布元→capriccio
再録:10.28.2023/update:10.13.2023




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