この国に落とされて、ずっと呪って呪って呪って。
神なんて朽ち果てればいいのに、そう思って。
けれど、ここは彼女のいる国で、けれどやっぱり恨むべき国で。
ボクはずっと、本当にずっと、甘い気持なんかちっともなくて、ずっと恨んでいたんだ。
この国を、そしてここにボクを捨てた彼女のことを。
ボクはここではない世界で生まれた。
夢でも世迷言でもなく、ボクはこの世界の人間じゃない。
ひどい衝撃を受けて、意識が戻ったらボクはこの粗末な孤児院の中にいた。
どうやってきただとかも、全くわからなくて。
覚えていたのは、長い黒髪と、琥珀色の瞳、そしてすべての感情を失ったかのような美しい顔。
人形、だと思った彼女はボクを見下ろし、そして首を傾げた。
それだけを見つめて、ボクは意識を失った。
この孤児院でもないどこかで、ボクは確かに彼女に会ったんだ。
それを、誰にも言ったことはないのだけど。
教会の隣に併設された孤児院は、やはりどこか宗教めいた習慣が染みついている。
ごはんを食べる前にお祈りをするし、定期的に隣の教会に行って、みんなで何かをする。
僕はここの神様なんか知らないし、信じてはいないし、やる気なんかない。
けど、それを声高に叫ぶほど子どもじゃない。
この世界の孤児院では外にでる年齢が決められている。
もう僕はそれをとっくに超えていて、けれども見た目だけでここに居座っている。
年なんかごまかして、そしてどうしてここにいるのかなんてことを考えている。
前の記憶はもう曖昧で、けれども確かにここよりもずっと快適な生活ができる世界にいたことは確かで。
「……ボクを戻してください」
一日の仕事が終わって、抽象的な神像に祈りをささげる。
信じてないけど、ここではボクがいた世界よりもずっと神が身近だ。
神託がでただの大騒ぎすることは珍しいことじゃない。
それが空事ではないのだと、誰が認定するかなどわからないまま、そういうことだと個々の世界では認識されている。
中には、確かに神託だと、おもえることはあるにはあるのだけれども。
「出来なかったら、もう一度あの人に合わせてください」
一度だけ見た、あの人。
ビー玉のような目で、感情のかけらもない顔をしてボクを見下ろしていた。
めんどうだ、という意思だけは少しだけ理解した。
そして、僕は彼女の目の前から永遠に遠ざかってしまった。
綺麗で、無機質で。
ボクの感情の意味がわからない。
けど、ボクは彼女に会いたかったんだ。
再掲載:10.07.2023/update:09.26.2023