15 - 貴方の色ならいとおしい

  たくさんのハンカチの中から、無意識に一枚を選びとる。
それは、どこかで見た色で、けれども気がつかないふりをした。



あのハンカチをバッグの中に忍ばせて、彼の前に立ち挨拶を交わす。
なんと言うこともないようにふるまう。
少し長い前髪も、ちょっと色素が薄い瞳の色も、ずっと前から知っていて、だけどこれ以上近くに行くことは許されていない。

私の後ろから声がかかる。


かわいくて、大好きで、大嫌いな彼女の声。
私と彼の間に自然な流れで入り込み、彼の腕に触れる。
表情がひきつらないように、心の中でため息をつく。

大丈夫。

彼女は私の友達で、彼は彼女の恋人なのだから。
バッグの中のハンカチにそっと触れる。
私の隣に立った彼女と一緒に歩きだす。

背中を、チラリと見上げる。

また、ため息をを圧し殺し、彼女の話に相づちをうつ。
大丈夫。
ハンカチを取り出して、額を押さえる。
目に入った色は、やっぱり、誰かを想起させる。

大丈夫、まだ。

私は彼女の友達だから。



お題配布元→capriccio
再録:09.26.2023/update:09.22.2023

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