14 -未来が見えなくても

   三十過ぎの独身彼氏なし、猫を抱えた一人暮らし。
別にこのあたりでは珍しくもなんともないスペックの私は、母親にとってはとてもとても絶望的なものなのだ。
と、いうことをこの一年痛感している。
それというのも、このご時世で、彼女の趣味が制限され、私へ向けられる時間が余ってしまったからだ。
余計な時間は余計な考えを涌かせ、通信機能の向上はダイレクトにそれを私へと放ってくれる。

いい加減にしてほしい。

さくっと切断したスマホの画面に呟く。
今日も今日とてどこからもってきたのか、見合いの話をひっぱってきていた。
どれもこれもおひとりさまの方がずいぶんと人生が楽である、と思わせる相手ばかりなのは、母親が私のことを嫌いなのだろうとさえ思ってしまう。
いや、理解はしている。
あの地域に育って、あの地域で生活して、あの地域からでていな彼女にとっては、弟に先を越された行き遅れの私など、そういった面子しか相手にされないと思っているのだ。

半径五キロの世界。

彼女も弟も、おそらく幸せだし、たぶんその考えは変わることはないのだろう。
つくづくと、早めに飛び出しておいてよかったと昔の自分の暴挙をかみしめる。
私の叔母が、やはり私と同じようなコースで都会へ出て、おひとり様を満喫中だ。彼氏がいる、という噂は聞くけど結婚する、という話は聞いたことがない。
あの世界から脱出して、あたりまえだった家族間が崩され、あの立場には二度と立ちたくはないと思ってしまう気持ちは私もなぞる様に同意する。
とがってぎすぎすしていた以前の自分より、彼女たちなりに、幸せなのだと達観もしている。
あと少し、私への干渉をやめてくれさえすれば、家族とも穏やかに会話ができるだろうに。
最近覚えた無料通話アプリの着信音が響く。
すべて無視して、人間張りにいぶかし気な顔をした猫を眺める。
毛づくろいをして、お気に入りのクッションに乗り、そしてあくびを一つ。
寝ることに決めた猫は、とても幸せそうだ。
私みたいな人間とも、そこそこ仲良く暮らしてくれている。
今は、それでいい。
それ以上でも以下でもなく、私の幸せはここにある。
完全にスマホの電源を切り、シャワーを浴びるためにのろのろと立ち上がる。
ちらり、とだけこちらを見上げ、そして猫は再び眠りに入る。
未来など、あやふやなものだとしても。




再録:09.26.2023/update:06.23.2021




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