07 - ネクタイを解いて

 滅多に見られるものじゃないけど、私はネクタイを締める仕草が好きだ。
タバコは嫌いだけど、吸う仕草が好き、とか、ひょっとしたら手フェチなのかもしれないけど。

「なに?」

ソファーの背もたれに顎を乗せながら、だらしない格好で凝視する私に彼が声を掛ける。
まあ、確かに意味もなく見られたら戸惑うだろう。
でも、私としてもこんなおいしいシチュエーションはないわけで、誤魔化すように笑ってさらに見る。
意味不明な行動が今に始まったことではないせいか、彼は呆れたような表情を一瞬だけ見せて、中断していた作業にとりかかる。
彼もネクタイを締め慣れた仕事じゃないせいか、あまり上手くいかないようだ。
解いては閉め、を繰り返し、ようやく満足が行く形となる。

「かっこいいね」

呟いた声が思いのほか大きかったせいか、彼が振り向いて逆にこちらを凝視する。

「・・・・・・スーツ好きか?」
「や、そういうわけじゃないけど」

いつもは綿のシャツにチノパン、というどういう職業か推測することが難しい格好をしている彼のスーツは確かに格好がいい。
でもそれもこれも、ネクタイを締めるという動作があってこそなのだよ!
という私の情熱的なフェチはとりあえず黙っておく。
人差し指でネクタイの隙間を確認して、彼はとりあえずの身支度を終える。
そんな仕草にも萌える、と言ったら確実に変態扱いされそうだ。
誰にでもそういう偏執的な部分はあるということで。
にっこり笑って、私より出かける時間が早い彼を見送る。
適当に自分の身支度を済ませ、恐らく誰が見てもにやついている顔を押さえながらドアの鍵を閉める。
ネクタイを締めた、ということは帰ってきたら解くということで、と。
さらにその情景を目にしなくては、と、仕事の段取りを頭の中で確認をする。
その日の私は一日中ご機嫌で、その理由がわからない周囲は不気味なものを見るかのような視線を送ってくれた。



再録:5.14.2014/09.18.2013

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