06 - 優越感

 彼と歩いていたら、突然彼が誰かを呼んだ。
声の先には女の人がいて、その人は嬉しそうな顔をして、私をみつけて次に無表情になった。
背の高い彼を見上げるようにして、少しだけひきつったような笑顔で彼とやりとりをする。
内容なんかわからなくて、でも彼女が大学時代の同期だ、ということだけはわかった。
大学に行っていない私は、大学がどういうものかもわからないし、その付き合いがどういったものなのかもわからない。
中学や高校の同級生とは違うのか、とか、サークルがどうだとか、本当に想像すらできない。
でもつまらない顔をしないように気をつけて、彼の袖を少しだけ握る。
私という存在を紹介されて、彼の隣に立っているのに、彼女は私に話をふろうとはしない。
私も、彼と彼女の共有する世界を知らなくて、口を挟めないまま。
たった数分、だったのに、どこか遠くに行ってしまいそうになって、指先に力を込める。
私は、出会ってからの彼しか知らない。
知らない彼が、知らない彼女と楽しそうに話すのが嫌で、でも、それを彼には知られたくなくて。
複雑な気持ちのやりとりなんか、全くわからない彼は、優しい視線を私に向けて彼女との会話を終了させる。
彼女は、綺麗に張り付いたままの笑顔を崩さないように、一瞬だけ私に厳しい目を向ける。
やっぱり、彼は気がつきもしないで、私と歩く。
背中に、彼女の視線が絡みつきそうで、だけれども私を選んでくれた、なんていう無駄な優越感さえ感じてしまう。
私は、こんなにも嫉妬深くて、心が狭い女だったのだと、がっかりしながら。

私に歩みを合わせてくれた彼の隣を歩く。
そっと、気がつかれないように振り向いてみた。
こちらを見たままの彼女は、彼しかみていなくて、私のことなんか見えていない。
握った手の感触を確かめて、彼を見上げる。
私の大好きな笑顔があって、私は安心する。
たわいない会話を交わして、おいしいご飯を食べた頃、ようやく私は焦燥感から解放された。



4.28.2014再掲載/07.01.2013

04空を抱きしめる、と対になっているお話です。




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