47 - これ以上は、無理

 一歩踏み出したら、そのバランスが崩れる。
そんなことはわかりきったことで、それでも自分を抑えることができそうにない。

「なあ、それ」

大事そうに抱えたそれを指差す。
幼馴染の彼女は、綺麗な袋に入った何かを宝物のように抱えていた。
季節柄、その中身は容易に想像することができた。
たぶん。

「これ?チョコ」

あっさりと吐露する彼女は、自分のことを男だとは認識していないようだ。
オムツの頃から一緒に過ごし、情けないところもいやというほど見てきた仲だからこそ当然だろう。
自分も、そうだったのならよかったのに、と、言葉につまる。

「先輩にか?」

最近彼女がご執心の一つ上の先輩を思い浮かべる。
どこかのアイドルか、というほど爽やかな笑顔に想像上でもすでにいらついている。
下駄箱からチョコレートがなだれのように落ちてくる、などという冗談みたいな現象を引き起こす男がこの世にいるだなんて思いもよらなかった。
おまけに、そんな優男に幼馴染がチョコレートを渡そうとしているだなんて。

「そうだよー、って、あんたには後でちゃんと渡すから」

ハートが乱舞しそうなほどの笑顔で、残酷なことを口にする。
あからさまに義理である、というチョコレートで喜ぶほど単純じゃない。
いや、ほんとはちょっと嬉しくはある。
全くなかったら、それはそれで恐らく一年以上引きずるだろうから。

「ま、恒例行事というか、お祭りみたいなもんじゃない?やっぱり」

本気でチョコを渡す、というほど真剣度がないことが幸いなのかもしれない。
まるで屋台にバナナチョコを買いに行く、かのような軽さで彼女が答える。
二人並んで仲良く学校に行く姿は有名だ。
年頃の男女が、わけもなく一緒に登校するわけはない。そんな勘違いが元で、自分たちはもはや公認カップル、のような振る舞いをされている。
事実はご覧の通り、なのだけど。
だからきっと、学校一のモテ男の先輩も、彼女のチョコはかわいい後輩チョコ、と捕らえてくれるだろう。
安堵の言葉と、不安な気持ちがごっちゃになりながらたわいもない会話を交わす。

「終わったら、時間ある?」
「……あるっちゃあるけど」

部活のスケジュールを思い浮かべる。
さして熱心でもない活動は、サボる口実には事欠かない。

「だったら、食べに来てくれる?今年は手作りだし」

さらり、と喜ばす言葉を吐いて、彼女はにっこりと笑う。
大事そうに抱えた紙袋を一瞥して、それでも笑い返す。
気持ちがあふれ出しそうになって、ぎりぎりのところでとどまる。
これから学校で、これからも学校で、そして自分たちは隣同士の家の幼馴染の関係だということを。
気まずい思いをしたくない。
ただそれだけを言い訳にしてここまで来た自分に、嫌気がさす。
それでも、彼女の隣にいたくて封じ込める。
日に日にかわいくなっていく彼女を前に、もう無理かもしれない。
そう思いながら。


05.16.2016再録/02.18.2016




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