街灯の下で重なる二人。
そんなべたなシチュエーションに遭遇した私は、どうやらこの物語のなかでは脇役だったようだ。
「機嫌悪い?」
スマホを操作しながら、彼氏がちらりとこちらを伺う。
オーダーした料理はまだ運ばれず、彼は指先で操作しながら、私は外で歩いている人を眺めながら大人しく待っている。
「おなか空いてるだけ」
眉間に皺でも寄っていたのか、珍しく私の様子を言い当てた彼に適当な言い訳を口にする。
ランチを待っている自分に、これほど相応しい言い訳はない。
彼の方も、納得したのか視線はすぐに小さな画面へと戻される。
今の私と彼のような、この手のカップルはよく目に付く。今までは、そんな状態で二人で居て、何が楽しいのかと思っていた。
それは半分あたりで、半分外れていた。
こんな風でもあいたくて、だけれども私を映さない彼に不満を覚えている。
たぶん、対象が雑誌ならば思わないのかもしれない。
小さな画面は、あっけないほど簡単にほかの誰かとつながってしまうから。
ようやく届いた料理に、とりあえず二人とも口をつける。
彼のほうは勢いよく、私はちまちまと。
上向きに置かれた画面からは、何の情報も私へと伝わってはこない。
あっという間に食べ終えた彼は、徐にスマホを手に取り操作を始める。
最近私も買い換えたそれに、どうしてそんな引力が備わっているのかがわからない。
ゲーム、なのかもそいれない。
情報、なのかもしれない。
「先週金曜日、飲み会どうだった?」
飲み会で会えない、と言い出したのは彼のほうだ。
私は大人しく、友達と食事をし、一人でねぐらへと帰宅した。
だから、あんな偶然がどうしてわが身に起こったのかがわからない。
知らなければよかったのに、という気持ちが渦巻く。
「どうって、普通だけど」
付き合いの延長線上だ、と申告した飲み会。
その中身を疑ったことなど今まで一度もない。
私に不審な無言電話がかかってきたとしても、それを結びつけて考えてはいなかった。
だけど。
「そう、大変ね、付き合いも」
出来るだけ抑揚を抑えて返す。
本当に、今までの私ならそう思っていたのだから。
半分食べ終えたところで、フォークを置く。
彼はまだ画面から目を離さない。
冷たいドリンクの表層から溶け出した氷が色を薄めていく。
「ねぇ」
ただ声をかける。
くぐもった、心ここにあらず、といった相槌が返される。
会話は続かない。
それでも私はこの関係を壊してしまいたくはない。
街灯の下の光景など、私の目の錯覚だと言い聞かせる。
「ごめん、なんか調子悪いから、帰るね」
自分の分の代金を置き、立ち上がる。
彼は少しだけ驚いて、申し訳程度の心配を口にする。
視線は、どこか画面に捕らわれたままで。
「またね」
そう言い聞かせる。
また、私は彼に会うのだと。
彼の恋人は私なのだと。
たとえ、あの彼女が今彼と繋がっている相手だとしても。
再掲載:02.09.2016/10.08.2015