「おまえが墓参りとは、殊勝なことだな」
赤子ほどの大きさの石が、ただ地面の上に置かれているだけの、墓標ともいえぬほど粗末なそれの前で男たちが相対する。
一人は、艶のある薄茶の髪を後ろで一つくくりにした、少年と呼べるほどの「男」。
もう一人は、こげ茶色の髪を無造作に後ろで伸ばしたままの「男」。
二人は一度みたら忘れられぬほどの美丈夫、と呼ばれるものたちだろう。
そして、男二人が普通の人とは違う、ということにも気がついてしまうだろう。
それもこれも人の子が存在すれば、の話ではあり、今はその判断を下すものはどこにもいない。
「うるさい」
少年は、花束を墓の前に置く。
男は、僅かな表情さえも動かさずに、彼がすることをただ見下ろす。
「まあ、でも、これはいらねーかなぁ」
あたりを見渡しながら、少年が呟く。
墓だと主張する置石は、ぐるりと花たちに囲まれている。
季節柄、今は秋桜ではあるが、四季折々に花たちが顔をみせるであろうことは確かなことだ。
数歩離れた場所には桜の木が彼らを見下ろし、あちこちに雑草とは思えない草木が植えられている。
そのどれもが適度に手入れをされており、長年放置された、といった風情にはみえない。
「おまえがやったのか?これ」
久しぶりの訪れに、少年が周囲の変化を問う。
彼にとっては、義務感だけで訪れるこの場所も、青年にとっては異なることを知っている。
あれからどれぐらいの月日がたってしまったのかはわからない。
だけれども、ここには「彼女」が眠っているのだから。
青年は、無表情のままあからさまに顔を背ける。
そんな彼の態度に苦笑し、少年は改めて墓の前で手を合わせる。
彼女をよく知っていたわけではない。
ただ、どういう経緯で青年とともにあり、そして朽ちていったのかを知っているだけだ。
そして、それ以降の彼がどうなってしまったのかも。
時折みせる狂気の火種が、無関係なものにむけられる。
昔は無関係を決め込んでいた少年が、ことさら事態の悪化を防ごうとしているのも、状況の変化なのだろう。
本来ならば、彼らはお互いにその境界を踏み越えるものではないのだから。
いつの間にか、青年の気配は消え、少年だけが取り残される。
立ち上がり、改めて周囲を見渡す。
一面の秋桜が目に飛び込んでくる。
「これなら、寂しくねーか」
少年の姿が掻き消える。
風に揺れる、秋桜たちを残して。
再掲載9.14.2015/7.1.2015