それを見た瞬間、景色が白黒になった。
今までにもさんざん言い古されてきた陳腐な現象に、わたしは出くわしてしまった。
「こんにちはぁ」
少しだけ顔をしかめて、それでも片手を挙げて挨拶をしてくれた幼馴染は、たぶん礼儀正しいいい子なんだろう。
その隣にべったりと引っ付いている女の子も、甘ったるい声で挨拶をしてくれるのだから、やっぱり礼儀正しいいい子なんでしょう。
引きつった顔を慌てて戻して、小さく頭を下げる。
ただのご近所さんで、母親同士がママ友だ、というわたしたちの関係ではそれぐらいがせいぜいだ。
立ち話をしたり、詮索をしたりはオコガマシイ。
「あ、急いでるから、ごめん、邪魔したかもー」
文脈が怪しい言葉を継ぎ接ぎして、慌てて立ち去る。
ゆっくり話をする仲でもないのだから、言い訳なんかしなくてもよいのに。
女の子はきれいな笑顔のままで、彼の左腕をひっぱっている。
平凡なわたしでも、わざわざ声をかけた存在は気になるのかもしれない。
近所の知り合いの子、それ以上でも以下でもないのだけど。
片方をはずしていたイヤホンをはめなおす。
お気に入りの音楽も、どこか素通りをしていくような気がする。
景色が白黒のままで、それでもちらちらと色つきの太陽がこちらを伺う。
いつものように本屋に寄って、適当に立ち読みをしても文字は滑り落ちていく。
徐々に色が戻る。
それでもどこか味気ないようで、わたしは数度頭を振る。
気がつけばベッドの上で、いつもどおりの天井を見上げる。
白い壁紙が見え、最近LEDに替えたライトが明るい。
手のひらの色を確認して、色を確かめる。
意味もなく握ったり開いたりしながら、肌の色の変化を眺める。
彼は、ご近所さんで、一緒に遊んだ記憶も一桁年齢までのことで。
そんなことを考えて思考を振り払う。
一瞬だけ霞んだ色彩が、ゆっくりと元へ戻っていく。
着信を知らせるケイタイを持ち上げ、いつものように操作していく。
ぽたり、と落ちたシズクはなかったことにして。
再掲載:8.6.2015/4.29.2015