25 - 吸血鬼

「まじで?」
「まじで」

文化祭の出し物で、お化け屋敷をやることになった我がクラス。
係はくじ引きで、ということでおそるおそるくじを引く。
人見知りの自分は裏方がいい、と、祈るようにして紙を取り出す。
無意識につばを飲み込んで、くじの中身を確かめる。
そこには「吸血鬼」と書かれた文字がしっかりと刻まれていた。
思わず出してしまった声は、隣に居たクラスメートにあっさりと返されてしまった。

「でも、これはちょっと」

吸血鬼、といえば、べただけど綺麗な男性が演じるものだと思っている自分は、どう考えてもこれは荷が重い。
顔面偏差値は普通だし、なにより自分は女子高校生だ。
やっぱり、ちょっといただけない。
どうせ脅かし役ならば、被り物がある役のがどれほど心理的に楽か。

「いや、まあ、お祭りだし、いいんじゃない?適当で」

クラスメートはあっさりと、自分の係りが大道具だと書いてあるくじをひらひらさせながらかわす。
あ、それがいい、と喉まで出掛かるが、不器用で力もない自分では足手まといだと思い直す。
くじをひっくり返し、もう一度中を確かめても文字は変わらない。

「……はぁ」

思わずため息をついたら軽くはたかれた。
それほど親しいわけではないクラスメートの突然の距離感に驚く。

「あ、や、なんかごめん」

よほど驚いた顔をしていたのか、彼が本当に申し訳ない風に謝罪する。
驚いただけで、嫌だったわけではないので慌てて首を左右に振る。
強く振りすぎて少し頭がくらりとしたけど、気持ちだけは伝わったのか、彼がへらりと笑う。
なんとなくその笑顔がかわいくて、私もつられて笑う。

「まあ、お祭りだしね」
「そうそう、お祭りだし」

些細なことで気持ちが上下して、人見知りで表にでなきゃいけない憂鬱さがちょっとだけましになる。
どうせ暗がりだし、とか、言い訳をさがして自分を慰めにかかる。
お祭りだし、と付け足して。

「あ、じゃあさ、終わったら一緒にまわらない?」
「うん、いいよー」

無意識に返事をしたら、機嫌がよさそうな顔をして彼は同じ役割の人たちの輪へと歩いていった。
私の方も脅かし役の一人から声がかかり、そちらの集まりへと顔を出す。
簡単な打ち合わせをして、時間がたって、一人で帰り道を歩いて気がついた。
単なるクラスメートに文化祭を一緒にと誘われ、うっかり承諾し、そしてそれがもたらす事実について。
憂鬱だった人前に出る仕事よりも、もっともっとハードルの高いことをしなくちゃいけないってことに。




再掲載:8.6.2015/4.29.2015




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