憂鬱な週明け月曜日に、全く偶然由香子は吉井の姿を目にする機会があった。
科が違えば縁遠く、学部が違えば全く異なる大学内において、彼女が彼の姿を目撃することは極まれだ。
それも、積極的に由香子が彼の姿を追えば、という条件付きである。
なんとなく嬉しくなって、吉井の姿を目で追いかける。
左耳の後ろあたりに、寝癖がついたままなのに目がいく。
今朝気がついて、どうにか直すように言い合ったそれは、多少はまし、という程度にはねていた。
全く接点がないと思われている自分が声をかけるのも、と、ためらっていたら突然知らない女性がフレームインしてきた。
首をかしげながら二人を凝視していたら、女性が吉井の髪に触れようとした。
瞬間、何かがひゅっと頭に昇っていく感覚に陥る。
ぐらぐらと頭が煮えて、けれどもどうしてそうなったかがわからない。
女性の手は、さりげなく吉井に避けられ、無表情の顔はさらに無機質なものへと変わる。
そういえば、吉井はそういう接触が苦手だったと、思い出して冷静な自分に戻る。
「何笑ってんの?」
料理を並べたトレイをもったまま、友人の佐緒里が突っ込みを入れる。
「笑ってた?」
顔を引き締めて、視線をはずす。
吉井の姿はもう佐緒里からは確認できない位置へと遠ざかっているはずだ。
「それはもう気持ち悪く」
「や、ちょっと、昨日読んだ本がおもしろくって」
べたな言い訳を口にして、へらりと笑う。
「やー、不気味だから程ほどにしときなよね」
それ以上深く突っ込むはないのか、佐緒里はあいてる席へと由香子を促しながら歩き始める。
「って、あんたあいかわらず」
謎の笑みには全く興味をうしなった佐緒里が、由香子のトレイの上を一瞥してぼやく。
小柄な成人女性が食べきれるとは思えないほど大盛りのカレー、さらにはうどんが追加されたそれをみてうんざりした顔をする。
「これでもちょっと遠慮したんだけどなぁ」
二人で小さくいただきますをしながら、食べ始める。
由香子は豪快に、佐緒里はほどほどに。
寝癖と、吉井と、そしてそれらにまつわる色々によってもたらされた感情の波を、カレーがおいしい、という由香子らしい笑顔としてごまかしながら。
→どこまでも曖昧なワタシタチ/小説家になろうver.
→どこまでも曖昧なワタシタチ
再掲載07.08.2015/10.08.2014