美しいこげ茶色の髪を無造作に束ねた男は、縁側から庭を眺め嘆息する。
表情はわずかにも変化せず、男の美貌はまるで硬質な人形がもつそれのようでもある。
「つまらないな」
そう呟いたまま、彼は仰向けに寝転ぶ。
目を閉じ、黙り込む。
人工的に作った暗闇の中では、いつもあるものが浮かぶ。
意識して振り払おうとしたその残像すら鮮やかなまま。
目を開ける。
浮かんでいた姿は、突然白黒となって消えていく。
まるで苔むした森の中へ消えていくかのように。
「つまんねぇ!」
一声叫び、男の姿は突然掻き消えた。
「だーかーら、ほんとにやめてくれよ」
薄茶の髪色をもつ男が、わずかに濃い茶色をもつ男へと話しかける。
彼らは人気のないことがあたりまえの、小さな雑居ビルの屋上へと腰を下ろしていた。
「・・・・・・、うるせーな。勝手だろうが」
嘯く男に、薄茶色の男が軽く頭をはたく。
「あのね、もうあきらめたんじゃないの?」
「・・・・・・」
彼らが見下ろした先には、なかなかに美しい少女が立っており、何が楽しいのか同じ年頃の少女と声を上げて笑いあっていた。
「確かにきれーな子だけどさ」
呆れたような顔をして、だけれどもしつこくこげ茶色の男に声をかける。
彼らにとっては、何百回も繰り返されたやりとりであり、ほとんど言うことを聞かない男に、それでも彼は諦めることはない。
彼が諦めた結果がどうなるのか、を、知り尽くしているのだから。
「全然、全く、あの場に適応していないってわかったでしょ?」
「・・・・・・だから?」
彼らが住まうそこは、人の立ち入る世界ではない。
当然、彼らも人ではない。
それを神と呼ぶか、魔物と呼ぶかは「人」次第ではあるが。
「あの子は、あの子じゃない」
快活に笑う少女を指差し、そして誰かを思い浮かべて薄茶色の男は吐き出す。
誰かの面影を重ねていた男は、面白くないような顔をして顔をそらす。
「知ってる」
「だったらあきらめろ」
こげ茶色の男は口を閉じ、そしてその姿を消した。
薄茶色の男は深くため息をつき、同じようにどこかへと消え去っていった。
少女はなおも楽しそうに友人と会話を交わし、その背中は徐々に小さくなっていった。
屋敷へと戻ったこげ茶色の男は、再び縁側へと座り、柱に背を預ける。
緑色の庭園を眺め、何かの姿を探す。
目をつぶり、そして鮮やかに浮かぶ何かを思う。
だが、目を開ければ、そこには色あせた世界が入るばかり。
彼は、また強く目をつむる。
彼だけの鮮やかな何か、を探して。
→少女とカミサマ
再掲載:07.08.2015/10.08.2014