私は結構仕事が好きだ。
もちろんこのご時世にようやく手に入れた社員の立場、というのも大切だ。
だが、それ以上に働いて賃金を得る、というシステムをとても気に入っている。
まるで役に立たない新人時代を経て、ようやく少しは得た賃金並みには会社に貢献できている、と信じている。
まあ、まだまだなところもあるから、それほど胸を張っていえるわけじゃないけど。
それでも、と、そこかまでわけのわからないことへ思考をめぐらせながら目の前の新人もどきを見下ろす。
女性にしては背が高いうえに、常にヒールを履いている自分は大抵の女性より視線が上だ。
当然会話をするときなどは見下ろさざるを得ない。
きつい顔立ちに、この上背。
どう考えても私が新人もどきをいじめている図としか見えないだろう。
私だって客観的に考えればそうみる。
「ごめんなさい」
そこはせめてすみませんだろう、とためいきをつくのを抑える。
私がそんなことをすればますます私がいじめている、と見る輩がいるだろう。
なにせこの新人もどきは小さくて適度にまるくて、そして小動物のような愛らしさをもっているのだから。
「・・・・・・わかりました。ここは私が引き受けますから」
引きつった笑顔をみせないように、彼女に次の指示をとばす。
丁寧に、丁寧に彼女を他の包容力のある先輩方へと飛ばす。
昔の少女漫画ではないのだから、ドジっこ属性などいらないのだと、あくまでもニコニコと。
指名された先輩は私の次にひきつった顔をして、彼女に見えないように両手で大きなバツをつくる。
仕事を回されそうなほかの人間は、こちらに気が付かないふりをして、あからさまに下を向いて仕事に没頭する。
彼女を愛らしい、かわいい、と思ってはみてもわが身に降りかかる災難と比べたら、そんなものはとるに足らないものだ。
最も、彼女自身はこの微妙な疎外状態に気が付いてもいないようだが。
「えっと」
上目遣いで見られても、同性同士でそんな趣味はない私には全く響かない。
だけど、ちょーっとだけ優しいふりをしてにっこりと笑い返す。
彼女は私の内心など全く気が付かない様子で、私が指名した先輩の下へと逃げ出していった。
結局彼女からは謝罪も反省も聞かれないままだったけれど、それはそれとしておく。
被害を必要最低限に食い止めた私えらい、と、自画自賛する。
そして、彼女が近寄った先の人間ににっこりと、それはもういい笑顔をみせる。
それが私が優しくなれる唯一の方法。
やりかえされたら心がささくれるけど。
再掲載:11.01.2014/02.25.2014