ちくちくと刺すような胸の痛み。
それが、どういったものからもたらされるのかわからなかった自分。
今になって、あれはきっと、最も遠ざけた気持ちの一つだったのだと気づく。
「・・・・・・、お久しぶりです」
礼儀正しく挨拶をされ、その声を発した人間を凝視した。
額にかかる前髪を押さえ、彼女は自分を見上げながら微笑んだ。
「久しぶり」
気の効いた言葉一つ言えずに、ただ言葉をなぞる。
数年ぶりに会う彼女は、自分が知っていた彼女のようで、全く違う女性だった。
全く変わらず、いや、どこかくたびれた風情の自分を思い返し、どういうわけか羞恥心を覚える。
彼女は今から、の人間なのだと。
綺麗に彩られた唇から、次々と近況報告、という名の雑談が飛び出す。
それに頷きながら、時折笑いながら、そして彼女が今まで歩んできた年月を思う。
たった四年。
自分にとってはほんの数拍のような時間で、彼女は大人の女性となっていた。
風貌だけではない変化を感じ取りながら、わが身の変わらなさを嘆く。
大した情熱を持たずに仕事をこなし、日々を過ごす。
それを卑下するつもりはないし、言い訳をするつもりもない。
だが、全てをひっくるめて、今目の前にいる存在が眩い。
「先生?」
不思議そうに小首を傾げる。
「元気そうだな」
ようやく出てきた自分からの問いかけに、彼女は照れたように頷く。
話したかった色々な言葉が霧散していく。
今、の彼女に自分が入り込む隙間などどこにもないのだと気がついてしまったから。
用事があることを思い出した彼女は、勢いよく自分にアドレスを渡し、そして元気に立ち去っていった。
もう、接触はないだろう。
そう予想しながら、携帯を閉じる。
あのときの自分の判断が正しかったのだと信じて。
再掲載:9.26.2014