06. 平行線の二人だった(裏通りのカミサマ)

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お題配布元→capriccio

「なお、これはどういうつもりだ?」

陶器のような肌を持つ、人間離れした美貌を持った男が、目の前に出された膳を指差しそう問いかける。
問いかけられた女は、その外見の歳に似合わない艶やかな笑顔を浮かべる。

「食べることに意味などもちませんでしょう」
「だから、そういうことじゃなくて」

男は、さらに明らかに内容の違う二つの膳を指差しながら怒気を強める。
女の前の膳には、質素だが手の込んだ精進料理が一汁三菜と並べられている。反対に男の前の膳は、大盛りに盛られた飯だけが載せられ、申し訳程度に切り分けられた漬物が、辛うじてその彩を添えている。
男の怒気が高まるに連れ、部屋の中の空気が徐々に密なる物へと変化していく。
そこここで自由に蠢いていた何か、は息を止めているかのように二人の様子を伺っている。

「おまえ、そういうところが細かい女だな」
「貴方様はそういうところが大雑把な男でございますね」

丁寧だが冷たいものを含んだ女の言葉に、男がたじろぐ。

「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、俺が何したって言うんだ」

ことり、と手にしていた椀を膳の上に置き、女が微笑む。

「ほんとに、毎回毎回性懲りもなく」

椀の代わりに手にしたのはどこから現れたのか日本刀であり、その鞘をなれた手つきで抜き取る彼女の笑顔は、美しいだけに凄みが加わっている。
だが、喉笛に突きつけられた刃に目もくれず、男は困ったような顔をして女から視線をはずした。

「私が、わからないとお思いですか?」

素早い動きで振り切られた刃を避け、男が大きく跳ねて後ろへ下がる。

「あのな、おまえそういうもの振り回すのいいかげんやめろ」
「あなた様がそういうことをなさらなければ、私もいたしません!」

それを皮切りに、室内では命をかけた、はずのやりとりが行われる。
それは舞のようであり、女の剣をよける男はどこか嬉しそうである。
舞台は、室内から外へと移動し、掃き清められた神社の境内と思わしき場で、彼らの喧嘩が続けられる。

「亜衣さまをあきらめたと思ったら」
「いや、ちょっと味見?っていうの?なんか退屈だし」

段々速くなっていく剣筋に、男は慌てながらも、顔色は変えずに避け続ける。

「その結果どうなるかおわかりになりませんか!」
「やーー、おれってカミサマだし」
「いいかげんになさいませ!」

石畳に足をとられ、尻餅をついた男に、刃先が突きつけられる。

「本当にいいかげん、懲りてくださいませ」
「えええ?だめ」

小首を傾げた仕草に、女の何かが切れた。

「西に参ります!」

そう端的に告げ、刀を鞘へ戻し女が背を向ける。

「や、なお、それはちょっと」

女の背中に縋りつくような勢いで、男が彼女を追いかける。
そして、どこからかとぼけた男の声が聞こえ、女の姿が忽然と消えた。

「いいよいいよー、いつまででもいいよ」

という間抜けな男の声を残し。


カミサマと自称した男は、盛大に機嫌を悪くし、地面に胡坐をかきながら女の消えた空間を睨みつける。
そして地面を数度拳で殴った後、彼もまたどこかへと消えていった。


藤川亜衣という少女がここへ迷い込んで一年。
彼らの生活は淡々と紡がれる。
悲しいほど平凡で哀れなほど非凡な毎日を繰り返しながら。


再掲示10.27.2011/update:3.24.2011
裏通りのカミサマ

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