45. 戻れない場所

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お題配布元→capriccio

 生まれた場所を一度だけ振り返り、再び歩き始める子供。
泣きそうな顔をしていた子供は、いつしか感情を伴わない表情を浮かべ、しっかりとした足取りで男の半歩後ろを歩き続けている。
子供が生まれた村では、一人、また一人と同じぐらいの背格好の幼子たちが消えていた。理由を尋ねれば殴られ、そしてどこの子も、次は自分の番だ、ということをうっすら感じながら生活をしていた。
遊ぶ余裕すらなく、出来る範囲内の仕事をこなす子供たちも、食うに困る大人たちにとっては邪魔者でしかない。
そんなことは、どれだけのんきな頭の構造をしていても感じ取れるものだ。
男に連れられた子供も、それを自覚していた子供である、というだけだ。
ろくに泣き言一つ言わない子供に、薄気味の悪さを感じながら、男は言われた仕事をこなすべく歩き続ける。
彼だとて、このような仕事を進んでやっているわけではない。
倫理観だとか、社会正義だとか、そのような言葉が腹を膨らませてくれるわけではない。
嘯きながらもどこか罪悪感を感じながら、男は子供を連れながらひたすら歩く。
やがて、約束どおり男は子供をとある場所へと運ぶ。
子供は、生まれ育った村を見返ったように、一度だけ男を振り返り、頭を下げた。
あきらめきったような目と男は視線が合い、思わず逸らす。
子供が、どういう風に扱われるかを知らないわけではない。
いつもやっている仕事を、ただこなしただけだ。
言い訳とも付かない言葉を頭の中で繰り返しながら、男は貰った駄賃をもって酒場へと繰り出す。
偽善者と謗られるような罪悪感を抱きながら。

罪悪感が薄れ、ようやく忘れたふりができるようになったころ、とある場所で男はあの子供と出会う。
そしてその出会いは、男の運命を大きく変えていくことになる。




再掲載8.23.2013/1.17.2013

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