42. 信頼を裏切れない(零れ落ちた花びら)

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お題配布元→capriccio

 騎士は己の人生を振り返る。
混乱の中、全てを救い出してくれた賢王、彼に忠誠を誓った自分。彼のためにあり、彼のためだけに剣を振るう生涯を疑ってもいなかった。
名高い王として治世を終え、そして終生語られるべきだった王に変化が訪れたのはいつだったのか。
剣を握り締めた右腕を見つめる。
守るべき人から与えられた剣で、守るべき人に刃向かうことになろうとは、髪の毛一本たりとも想像したことがなかった。
今までの戦いとは違う様相に、騎士はどこかで後ろを振り返りたくなる衝動にかられる。自分のやっていることが「正義」だなどと、指差して笑う自らの姿が追いかけてくるように思えて。
だが、迷い、葛藤する自分自身を鼓舞したのは、彼を信じ付き従ってくれる元部下たちの存在であり、幾度も自分の手をすり抜けていくようにして消えていった少女の存在だった。

「後悔、しないかい?」

真摯に、だがどこか意地悪くそうたずねたのは公爵だった。
王姉を娶ったにもかかわらず、いつの間にか要職をはずされていた彼は、この集団の中心となる人物だ。
聡明だと伝え聞く通り、公爵は常に冷静であり、そして彼らの信頼に足る人間であった。
だが、そんな公爵をもってしても、彼の躊躇いは消えてはくれない。
一生を守ると近い、名誉ある騎士の職を誇りに思ったのは、賢王と名高い今王があってこそだ。
その思いが消えることは、おそらく一生ないだろう。

「はい、と素直に申し上げることはできません」

率直過ぎる吐露に、公爵は笑いをかみ殺す。

「はは、言葉だけを飾るよりよほどいい」

公爵は、剣を抜き、そして彼らがやってきた道を指す。

「だが、忘れるな。彼らの姿を」

彼らが通ってきた道には、わずかばかりでも抵抗を示したものたちが転がっている。
そして、その先には、この混乱を収めてくれるものを待つしかない国民たちがいる。
騎士は静かに頷き、そして彼らは王城へと突入していった。




再掲載:06.26.2013/12.06.2012
零れ落ちた花びら

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