41. 水底に沈む声

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お題配布元→capriccio

「ん?」

少女は歩みを止め、湖面に目を凝らした。
あたりは既に暗くなりかけ、しばらくすれば少女の姿すら見えなくなる頃だろう。
ふいに足を止めた少女を、後ろにつきしたがっていた男が先を急ぐように背中を押す。

「何か聞こえない?」

背中に添えられた手を気にすることなく、だいぶ身長差のある男を見上げながらたずねる。
大柄な上に、どちらかというと厳つい顔をした男は、怖い顔をよりいっそう怖くしながらただ首を振る。
厄介ごとに首を突っ込んではいけない。
言外ににじませながら抵抗する少女を押し出す。

「なんか気になるなぁ」

少女はなおも足を止めながら、眼下にある湖を見つめる。
地元民に言わせればここはいわくつきの水場であり、こんなところでこんな時間に近くをうろつくなど正気の沙汰ではない。
そんなことをやってのけるのは、彼女たちが無謀だからではなく、ただ単に何もしらない旅人だったからだ。

「この前」

その一言で少女は前回巻き込まれた厄介ごとを思い出し、とりあえず促されるまま先を急ぐ。
彼女はどういうわけかそういったものを引き寄せる体質であり、またそれをよしとする性格でもある。
だが、今日ばかりは少しばかり時と場所が悪かった。
日が暮れる前には宿屋に到着しなくてはならず、どれほど学習しない無鉄砲な少女であろうとも、さすがに男の言に理があるとわかってはいるのだ。

「でもなぁ」

後ろ髪をひかれながらも彼女は前に進み、男はそれに付き従っていった。
案の定彼女は湖に沈む恨みをもった精霊、といったやっかいなものに巻き込まれたのはその夜のことだ。
彼女たちが行く先々で巻き込まれ、解決し、なぎ倒していった事件はやがて戯曲となって数多くの楽人たちが爪弾くのはわずかばかり先の話である。



再掲載:6.26.2013/12.06.2012

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