04. 煮詰めた孤独

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お題配布元→capriccio

大好きな人と結婚して、二人で生活する。
私は、ただそれだけで幸せになれると思っていた。



「行ってくる」
「いってらっしゃい」

それだけの会話を交わし、夫が会社へと出勤していく。
その背中を見つめ、これが人と交わす最後の会話になるかもしれない、と考える。
転勤族の夫が二人が住んでいた土地から去る時期にあわせ、私たちは結婚し、夫婦として新たな任地にやってきた。
ほぼ二年に一回、という転勤のため、私は職につくことをあきらめ、また趣味になるようなサークルにも参加しないでいた。
慣れない新しい社会、そしてようやく慣れた頃の別れ。
何度繰り返しても私はきっとなれないだろう。
だったらいっそ家へ引きこもっていればよい。
幸い、夫は私の考えに賛成してくれた。
私はただ、家の中の事をしていればよい、と。
戸惑って時間がかかっていた家事も、慣れてしまえば手間取らなくなる。そもそも二人分の家事は手抜きをしようとすればいくらでもできてしまうのだ。
もちろん、突き詰めればいくら時間があっても足りないのだけど、手の込んだ料理よりも有り合わせで作ったような料理に喜ぶ夫をもてば、そのモチベーションを保つのは難しい。

「はぁ」

誰も声をかけることすらないため息をつき、買い物の準備をする。
二人分の買出しは、数日に一度でよい。
最近では対人の店で買うことすら億劫となり、ますますひきこもった生活が色濃くなっている。
そして、私はまた確認をする。
行きかう人々に、ありきたりのやり取りをする店員に。
彼らの言葉が、私が過ごしてきた土地の言葉と違うことを。
あたりまえで、でもあたりまえではなくて。
理解はできるけれども、どこまでも違う言葉は、私を孤独にさせる。
人々が一斉に行きかう交差点で、あふれる言葉に、何気ない笑顔に。
私は、一人ぼっちなのだと。


再掲示:9.23.2011/update:12.21.2010

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