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お題配布元→capriccio様
「見たいものしか見たくないだけじゃない」
言い切られた言葉に、俺は言い訳すらできなかった。
王宮、端的に言えば王の所業が徐々に明るみに出た頃、ユズリハは「騎士さま」の前から姿を消した。
それが自発的ではないことは、様々な目撃証言から明らかだ。
じりじりと焦がれるような胸のうちを見透かされないように、元団長の彼は仲間たちと綿密な連絡を取り合っていた。
小さな綻びから一気に破壊の方向へ。
国の内情を見ていたものは必然だと思い、見てこなかったものたちには急激な崩壊への道は、もはや止められる流れではなかった。
次々と消える美麗な若者。
ただそれだけならば、都市伝説の一つだと一笑に付されていただろう。
それが、おぞましくも尊き人によって行われていたのでなければ。
手がかりとなった遺体は、誰もが目をそむけるような有様であったと伝わっている。
数々の緘口令も、圧力も、もはやなんの効き目もなくなっていた。
まして、混乱に乗じて、王は、実の姉といかがわしい関係にある、といった醜聞まで出る始末である。
確かに、非常に仲のよい二人の姿を目撃されてはいた。
美しい王妃が嫁いできたことにより、口さがない連中は黙っていたものだ。
しかし、今は王妃はいない。
その代わりとばかりに、王姉は王宮へ居座り続け、夫である公爵は要職からはずされた。
噂をするな、という方が無理な状況ではある。
王妃の生国からの要求、徐々に攻め寄られる国境。
もはや、国民のほとんどが、その原因を王家に求め、英邁な王と崇める人々は少数派となっていった。
そんな中でも、団長、いや元団長はどこか王を追及する自分に迷っていた。
ただ一人の主。
忠誠を誓った相手。
己の命も何もかも捧げた相手。
職業意識の強さが災いして、呪縛から逃れることができないでいた。
そんなときに出会ったのが、ユズリハを探して出会った、娼館の女たちだった。
見つけたと思えば姿を消したユズリハは、「誰か」がさらっていったことが証言されていた。
確認を取るべく、ユズリハが働いていた場所を尋ねれば、娼婦たちは口々に様々なことを口にする。
「だって、王様でしょ?」
誰かが言った言葉を、誰も否定はしない。
不敬だ、と眉を顰める人すらいない有様だ。
いつのまにか、王家の立場は失墜してしまったのだ。
欲によって国民を振り回す役立たずとして。
「いや、それは・・・・・・」
だが、どこかで疑いきれない元団長は、ただただ言葉を濁す。
女たちの哀れむような視線が突き刺さり、そして言葉は放たれる。
「参上する、と伝えてくれ」
以前よりつなぎをつけていた元公爵への使いへ伝言を頼む。
王姉の夫である公爵は、彼などよりよほど早くから疑いの目を王家へ向けていた。
そして、それを振り払うのは自らの役目だと自覚していた。
体だけはでかく、手に届くところにいたユズリハを奪われてしまった自分とは覚悟が違う。
ようやく自覚した元団長は、唇を引き締め仲間を連れて戦場へとむかっていった。
そこには、ユズリハがいて、希望があるということを信じながら。
→零れ落ちた花びらへ
再掲載01.29.2013/10.3.2012
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