32. 不束者ですが、

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お題配布元→capriccio

「これってさぁ、どうして女側が言わなきゃいけないわけ?」
「いやぁ、どっちが言ってもいいんじゃない?今の世の中。それに今時聞いたことないし」

どこからか結納だか結婚の挨拶を交わす両家のシーン、というものを拾ってきた彼女は、軽口のように文句を口にする。
心底本気で思っているわけではないが、だからといって全てを受容できるわけではない会話に、ひっかかりを覚える。 それは、マリッジブルーというやつからきているのかと分析しながら。

「やっぱりこういう時期は色々ささくれてるんだわ、きっと」

一向に片付かない荷物を前に、彼女はどっかりとソファに座ったままだ。
男の方は先ほどから小物を梱包してはダンボールに詰める、を繰り返している。
長すぎた春、を経てようやく結婚することになった二人は、新居への引越しを控えている。
男の方は荷物が少ないこともあり、全てを業者任せにして運び入れは完了している。
問題は、今文句を言いながら座ったまま動かない彼女の方だ。
二人がいるのは彼女の現在の家であり、準備をしなくてはいけないのは彼女の方なのだ。
だが、その作業は一向に進んでいるようにはみえない。
少し働いては休み、気まぐれに動いては文句をたれる。
おおよそ、引越しに対してポジティブな態度ではない。

「だからさー、業者に頼めっていっただろ?」

だいぶ前から荷造りを頼めるサービスを行っている業者は多い。
これほどこういう作業が苦手な女が、そもそも自分からやるはずはないのだ。身の程を知るべきなのだ。
そんな男の苦言は耳を素通りしているのか、もはややけくそになって全てをゴミ袋に放り込み始めた。

「いや、まあ、いいけどさ」

多少は作業が進んだものの、それでも彼女の荷物は大人しくダンボールに入ってはくれない。
どうしてこんなものを、と、男が考えるものが出土し、もはや素人には手におえない状態となる。

「わかった、わかったから。僕が業者に連絡するから。やってもらうから、全部」

手渡されたペットボトルのお茶を飲み、男がそう宣言する。
疲れきった彼女の方も、ぼうっとしながらそれに同意する。

「やっぱりうちの場合、わたしが言うべきだな」
「なにが?」
「不束者ですがってやつ」
「まだ考えてたの?」

他愛ない、と思っていた会話を引っ張られ、男はとうとう彼女の隣、ソファーの上へ座り込む。

「お願いしますね」
「・・・・・・了解した」

それが引越しを頼む、なのか、人生を一緒に、なのかわからないまま了承する。


結局、彼女の引越しは伸び続け、彼が依頼した業者がやってくるまで解決することはなかった。
そのときには二人して大喜びし、祝杯をあげた。
空っぽになった部屋に安堵はしたものの、その後には新居での荷解きが待っていることを考えないようにしながら。
再掲載:21.10.2012/9.4.2012

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