03. 葉月に咲く花

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お題配布元→capriccio

 その名前通りの人だと思った。
彼女の後姿を見ながら、僕はそんなことを考えた。
彼女との出会いは何のひねりもなく、ただ同じクラスになったから、というもの。
そんなものに運命を感じるほど楽観主義でもない僕は、ただうるさい女がいるな、という感想しか彼女に抱かなかった。
どういう風にするのかもわからないけど、癖のない髪を頭の上のほうでくくって、束になった毛先が肩の上を楽しそうにはねている。
そんなところまで、彼女の陽性な性質が現れているようで、つくづく僕とは遠い人なんだな、って考えてた。

「宿題やってきた?」
「・・・・・・うん」

唐突に声を掛けられ、びくりと体を振るわせる。
座ったまま見上げると、そこにはさっきから僕が気にし続けていた葉月さんが立っていた。

「わかんないところがあるんだけど、教えてくれる?」
「僕が?」

眼鏡を通しても、違いすぎる彼女とは目をあわせられなくて、ちょっとだけ斜めの方を見る。そんな僕のためらいなどお構いなしに、彼女はがつんと距離を縮めてくる。

「だって、あなたが一番頭いいじゃない」

肯定するほど強くはなく、否定するほどいやらしくはない僕は、曖昧に微笑む。
確かに成績だけは僕が一番ではある。
だからといって頭がいいわけじゃない。

「でさー、ここなんだけど」

ばさり、と置かれた教科書とノートは、先日出された数学の宿題が映し出されている。
勢いに飲まれた僕は、問題と彼女の解答を目で追う。

「あ、ここ違う」

そしてなし崩し的に彼女の間違いを指摘し、解説し、宿題は綺麗に片付けられていった。

「ありがとーーーー、助かった!!」

ぱたんと閉じたノートを両手で挟み、彼女は豪快に笑った。
ああ、やっぱり彼女は名前通りの人なんだと。
校庭に咲くひまわりすら、彼女の顔を思い浮かばせるようで、その日の授業はぼんやりとした頭を素通りしていった。
それが、葉月さんとの最初の遭遇。

再掲示12.09.2011/update:6.19.2011

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