28. 喰らい続けた絶望

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お題配布元→capriccio

 あたしがそのことを気に入らないのは、ただのワガママだとカレは言った。
確かに、元カノでもなく、どころか好きだった人でもない異性と会うことすら嫌がるあたしは、随分心の狭い女だろう。
その事実と関係性だけを話したら、誰だってあたしがとんでもない束縛女だと言うに違いない。
だからと言って、あたしにとっては気持ちのいい話じゃない。
彼とあの女が二人きりで会うことは。
ただの友達。
同じ部屋で寝ても、何かがあると想像することも出来ない関係。
口を揃えてあなたたちは言う。
だけど彼は気がついていない。
友情に隠された彼女の執着を。
彼の後ろに控えめに立ちながら、綺麗な笑顔を作って、だけれども明らかに「女」の顔をしてあたしを挑発する、彼女を彼は知らない。
上手く言語化できないあたしは、彼らが「友達」だと口をそろえるたびに黙るしかない。
ただの友達というのは、わざわざお酒が出る店で二人きりで会わないと友情が保てないものなのか、出張先からあえて個人的に電話をしなければ続かないものなのか、そしてあたしとの約束を嘘をついて反故にして、秘密裏に合わなければ維持でないものなのか。
ずっと会わなくても友達、と嘯くわけじゃないけど、あたしの友達は、置かれた環境に配慮して付き合い方を変えてくれるし、あたしも変えている。それが大人になっていくことだと思っていたのだけれど。
あたしの疑問をささいなことだ、と、不思議にすら思わない二人は、結局答えてはくれなかったけれど。
話していくうちに、徐々に彼女の本心が透けてみえた。
男である彼にはわからない微妙な側面を、同性の彼女が気がつかないわけがない。
それは撒き餌のようなものだったのだろう。
悋気で心が狭い女と、気安くてさばさばした女という構図を作り出すための。
あたしはそれに別れをもってして答えてしまった。
私の方が彼のことをわかっている。
言外に語る彼女の思惑通りになったのが、少し悔しいかもだけど。
友達、仲間、兄弟みたいなもの。
言葉を重ねるごとに、二人を表す関係の心理的距離が近くなっていることに、彼は本当に気がつかなかったのだろうか。
でも、もういい。
捨てた男には興味がない。
ただ、わたし、という共通して邪魔をする人間がいなくなって、彼らはどうやって過ごせるのかには少しだけ興味があった。
ただの男と女、という関係になってしまうのか。
彼らが尊いのだと、言い募っていた笑ってしまう崇高な関係を降り、男女となるのにどういう言い訳をするのかと。
でもきっと、それも彼らの中では整合性のある出来事として処理されるのだろう。
そんなことを考えて、彼らに思考を支配されている自分が嫌になる。
ずっと同じ事を繰り返していけばいい、のろいの言葉を吐き出し、わたしは雑念を振り払う。
もうあんな真っ暗闇に落ちることはないのだから。
わたしはようやくまっすぐに前を見て歩き出すことができた。



再掲載:4.23.2012/12.08.2011

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