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お題配布元→capriccio様
目が覚めて、隣を確認して。
僕は、ただその感触だけを確かめる。
何もないそこは、僕の体温を吸い込むようにして、徐々に境目が曖昧になっていく。
君がいない。
ただ、それだけのことなのに、僕はまだそのことに対応できないまま。
出会いは四年前。
ありきたりのパターンだけど、大学の先輩と後輩。
ありがちな始まりだけど、それでも交際は順調だった。
大人しい彼女と、親という監視がはずれ、少々調子に乗っていた自分のつきあいは、浮ついた時期もあったけれど、だらだらとこれからも続いていく。
そう思っていた。
入り込んだのは慢心、という気持ち。
彼女ならわかってくれる、彼女なら遠慮してくれる。
聞きもしないのにそう決め付けて、僕は僕のしたいようにした。
いや、それすらも後付で誰かに言われて気がついた事実で、自分だけでは到底気がつけなかった。
彼女の気持ちも、今思えば自分自身の気持ちも。
僕は僕がないがしろにしたそれらに、結局付けを払わされたことになっただけだ。
突然もたらされた別れの言葉にただうろたえて、僕の掴む両手は、簡単に空を切った。
「あのな、こういうの苦手なんだけど」
飲み会と言われ、ほいほいついていったら女の子が同人数用意されていた。
それをなんと言うかはもちろん理解していて、そういうことを避けて通っていた僕にとっては、拷問でしかない。
どうして初対面の人間に気を使って飲まなければいけないのか。
それならば、自分の家にある観葉植物を眺めながらビールでも飲んでいた方がいい。
そんな、友人に言わせれば枯れた事を思いながら、正直に嫌な顔をする。
「いやさ、いい機会かな、と思って」
僕が苦手なことを重々承知しながら、嘘をついておびき寄せた友人が、複雑な顔をする。
「おまえ、彼女いないし」
「いらないって言ってるだろ?」
間髪入れない僕の返事に、友人が一瞬沈黙する。
「彼女、結婚するし」
数秒ののち、友人はさらりとそんなことを言って、そしてまたいつもの陽気な彼に戻っていった。
自己紹介だとか、趣味の話だとか、それなりに盛り上がった飲み会で、僕はどうにか顔だけ笑いながら最低限の付き合いをする。
次の店へ、という女の子の声に、無言で首を振って、強引に帰宅する。
誰もいない部屋に一人。
あの頃からあった観葉植物が二鉢。
だけど、君だけがいない。
そう、君だけがいない。
再掲示:10.17.2012/6.27.2012
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