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お題配布元→capriccio様
考えるだけで苦しくて、でもそれがどうしてなのかわからなくて。
私は、いつもここから逃げることだけを考えていた。
だけど、具体的なことは何一つ想像していなくて、いつか誰かが何かをしてくれる。そんな風に思っていた。
何も考えなくても、眠って起きたらクラスメートは笑ってて、日常は変わらない。
これからもこんな毎日が続く。
私はずっと、こういう中にいるんだってどこかで甘えていた。
この家がなくなる、って聞いて居場所がなくなる。単純にそう思った。
家に居るのが嫌で、亮太の家に逃げ込んだ。なのに、それでもこの家は、私にとって最後の居場所だったのかもしれない。
亮太に会わなくなって、一人でも平気になった。
それは先生、という存在に依存先を変えただけなのかもしれない。けれども、私にとっては大きな変化には違いなかった。
これからも大丈夫。
私は、きっと一人でいられる。
なのにその逃げ込んだ先がなくなるだなんて、想像もしていなかった。
父親にとってこの家は、ただの目障りなモノでしかなく、母親にとっては何の思い入れもないただの箱だ。
それを処分せずに今まで放置していたのは、一重にどちらも私という存在を引き取りたくなかっただけ。薄々感づいていた事実を、現実に突きつけられる。
そんな勝手なことを、と嘆くほど子供ではなく、責任を果たせと詰め寄ることも出来ない私は、大学生活の保障と引き換えに、思い出せないほど久しぶりな父の声を、黙って聞くことしかできなかった。
どこまでも他人行儀な声は、私をいつかは迎え入れてくれるかもしれない、そう思って縋っていた気持ちを粉々にするには、十分だった。
亮太には話さない。
先生には知られたくない。
考えの足りない脳みそがぐるぐる回って、布団をかぶって何も考えないようにする。
右手の手のひらには携帯が握られ、何の反応もないそれをただ暗闇の中で見つめる。
先生の声が聞きたくて、でも握り締めたまま何もできない。
最初は冷たかった携帯が、徐々に私の体温と同じになる。
外界の音さえ聞こえなくて、私はやっぱり一人ぼっちだと痛感する。
かわいそうな自分に酔っていた私を起こすかのように、携帯が鳴る。
メールの着信を知らせ、ちかちかとランプが点滅する。
ゆっくりと、それが先生から届いたものだと確認をする。
他愛もない文字列の中に、ご飯を一緒に食べよう、という文を見つける。
いつ、とも、約束されない約束に、私はいつのまにか涙を流していた。
両親の前でも泣けなくて、最後通牒のように突き放されても、機械的な返事しかできなかった。
そんな私を揺さぶるのは、先生だけだ。
楽になりたいだけで縋りつくつもりはない。
苦しくても、ただ近くにいたい。
私の中の気持ちが、ようやくはっきりと形となった。
再掲載:4.23.2012/12.08.2011
→adagio
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