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お題配布元→capriccio様
制服を着て彼の隣を歩くのは少し気まずい。
全くそんなことを気にしない晃さんは、明らかに上機嫌で私の隣を歩いている。
偶然、だと思いたいけれど、帰宅途中に出会った晃さんは、当然のように私の家までついてくる気だ。
普通のサラリーマンが、どうして中学生の下校時間に間に合うのかという疑問は、どこかへ放り投げておく。
確かに今日は行事のせいで遅くなったのだ。
どこからかそれを嗅ぎつけて、晃さんがやってきたとしても驚かない。
いや、ほんとは、ちょっとだけ驚いたけど。
「ごはん食べてく?」
私は困ったように首をかしげ、制服のスカートの裾をつまむ。
「親戚だし」
血は繋がってないし、一度で説明するのが面倒くさくて難しいぐらい遠いような気もするけれど、間違ったことは言っていない。
少しだけ困った顔をして、じっと晃さんの顔を見上げる。
彼は、私のこの表情に弱い。
伊達に私もこの人と長く付き合ってはいない。
隙をつかれれば、文字通り体ごと持っていかれそうなこの人に、私はいつまでも弱い少女のふりをする。
「たまには晴香と外食したかったんだけどなぁ」
だけど、さすがに彼も私と長く付き合ってはいない。
私が折れそうな条件と態度をさらっと、突きつけてくる。
私は正直、晃さんのこの顔が苦手だ。
やましいことが十二分にある自分の何かを見透かされそうで、折り合いがつく限りは条件を飲んでしまいそうになる。
「じゃあ、パスタ」
かわいらしく女の子が好みそうなメニューを口にする。
満足そうに笑って、わたしの頭をなでる。
それが、どういうところからくる感情かも理解した上で、わからないふりをする。
私は子供で、彼は大人。
心の中で繰り返しながら、私も笑う。
晃さんの隣で、私はいつの間にか本当の笑顔でいられた。
2.5.2012:再掲示/11.09.2011
→ひとつとや
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