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お題配布元→capriccio様
あたし、が好きなのか。
あたしについてくる何かが好きなのか。
わからなくって、不安で不安で。
だけれども、怖くて試すようなまねすらできなくて、ただ一人うずくまっていた。
結局、彼はあたしに付属するものが好きなのだとわかって、どこかすっきりもした。
「これ」
婚約指輪として渡されたそれを、彼へと差し向ける。
もらっておいて質屋に売ればいい、というのは友達の話。
だけど、到底そのお金を使えそうにないあたしは、やっぱり返すことにした。
明らかに機嫌が悪そうな彼は、声を出すことすら億劫そうに返事をよこす。
「返さなくていいし」
「でも」
リサイクルできるわけもなく、返されても困るのは彼も同じだ。
まして、要因も、それから齎される結果も、彼が理由だと明らかにされてしまった今となっては。
「あの」
「無理です」
こんなことになってしまった理由を、色々な人が彼に説明をし、説教をしても彼は納得はしなかった。
でも、だって、と繰り返される言葉に、あたしの中のためらいはいつのまにか綺麗さっぱり消えていった。
同じ言語を話していたはずなのに、全く言葉が通じない。あんなに頭がよくて、仕事ができるはずの彼に言葉が届かない。理解はしているけど、理解したくない人間との会話は、日本語を話しているはずなのに、と思う分だけストレスがたまって、悪いけれども軽くホラー気分を味わった。
そのときの精神状態は、擦り切れたぼろ雑巾のようで、でも、友達が笑い飛ばしてくれたことが唯一の救いだ。
そう、あたしにはまだ友達がいる。
そんなことを考えながらも、彼はこちらを未練がましく見つめる。
以前は、のぼせてしまいそうなその視線にすら、今では嫌悪感すら感じるだなんて、結構あたしは薄情なのかもしれない。
でも―――。
「あのさ」
「これ以上話すことはありませんから。返さなくていいのでしたら、これは売って寄付でもします!」
くるりと踵を返して格好よく去っていく大人なあたし、をイメージしていたら、がくんと動きが止められた。
彼ががっちりとあたしの右肩を掴み、体を反転させたからだ。
「やっぱり」
「だめって言ったらだめです。あれだけ言われてもわからないの?」
彼は捨てられた子犬のような顔をして、それでも肩に掛かる力はますます強くなっていく。
「おまえ俺のこと好きだったろ?」
この期に及んで出てきた言葉に、あたしはもう下がることはないと思っていた恋愛感情が再下降していく気分を味わった。
どうして、俺が好きだ、とこの人は言えないのだろう。
震える体に気合をいれながら、精一杯虚勢を張って睨み上げる。
剣呑な雰囲気のあたしたちに、公園にいた平和な家族連れが訝しげな視線を送る。
そして、彼の目に何かが映ったのだろう。
あたしは、ようやく解放された。
「じゃあね」
彼の舌打ちを聞きながら、小走りに兄の下へと走っていった。
五年の恋の終わりはあっけなく、でもあたしには大きな傷を残していった。
再掲示:1.5.2012/update8.11.2011
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