彼、を信じていないわけじゃない。
ガラス越しに華やかに展示されたアクセサリーを眺める彼を盗み見る。
全体的にカラフルで、私の好みからは外れたそれを熱心にみつめる。
興味がもてなくて、だけれども、彼のことが気になって、私は彼から目がはなせないでいる。
「これなんかどう?」
私に言わせるとじゃらじゃらとした色とりどりの石がついたピアスを指差す。
曖昧に微笑む。
さすがにあまり乗り気ではないことはわかるのか、さりげなくコーヒーショップへと私を誘う。
彼はピアスから目を離し、もう一度別のケースの中に入った華やかなそれら、に視線を落とす。
どう考えても私には似合わないそれ、を、彼は何か未練があるかのように、ゆっくりと視線をはずす。
「砂糖はなし、だったよね?」
付き合って一年。
幾度となく聞かれる質問に、機械のように頷き返す。
砂糖がいる、のは誰?
その質問は喉を超えることなく、苦味を加えて私の胃へと逆流していく。
無意識に手にし、もってきてしまったシロップをテーブルの上へ無造作に置く。
それ、が、何か二人の間の隔たりを象徴しているようで、思わず凝視する。
当たり障りのない会話を交わす。
居心地がよかった二人の空間は、徐々に痛みを伴い、今では彼と目とあわせることすら苦痛だ。
私は、知っている。
彼が誰と付き合っていたのか、どれほど長い時間をその人と共有したのか、を。
店の外に行きかう人々を何気なく追う視線。
ただ、それだけのことが私を追い詰める。
私は彼女じゃない。
私は彼女より彼のことを知らない。
ぼんやりとしていた私に彼の声がかかる。
意識を取りもどし、笑顔を作る。
彼は安心して、無意識にシロップを手にとり、軽く握り締める。
それが、必要なのは私ではない。
再び意識の中へと沈んだ私に彼の声が聞こえる。
お決まりのパターンを踏襲し、私は彼と肌を重ねる。
彼の目を、決して覗き込まないように。
誰かを求める、彼の視線に気がつかないように。
私は、彼を、それでも必要としているのだから。
6.23.2010update/4.9.2011再録