09.月
 窓越しに見上げた月は、とても綺麗で、私は泣き出しそうになる。
部屋の中は真っ暗で、お月様だけが明るい。
ぼんやりとだけ見える部屋の様子はいつもとは変わりはなくて、それでもどこかよそよそしく感じてしまう。
そんなことを思う自分が嫌で、もう一度月を見上げる。
やっぱりそこには、こんな醜い気持ちを持った私とは関係なく、綺麗な月が浮かんでいる。
それが嬉しくて、悔しくて。
カーテンを慌てて閉める。
真っ暗な部屋は、もっと真っ暗になる。
取り残されたような私は、ベッドの上に寝転がる。
時計の秒針の音以外は何も聞こえなくて、どこにも誰も存在していないかのような気分になる。
だけど、あの子がいることも事実で。
あの人がいることも現実だ。
悲劇のヒロインに浸りきったかのような自分が情けなくて、だけれどもちっともそこから進まない。
大好きだったあの人が、私のトモダチのあの子を好きだった。
たったそれだけのことなのに、私は今、自分の気持ちがコントロールできないでいる。
口を開けば、酷いことを口走りそうで、必死になって取り繕って、ニコニコ笑った。
嬉しそうなあの子から、あの人のことを聞きたくない。
私の方が好きなのに。
そんな根拠のないことを叫びそうになるから。
ぐちゃぐちゃで、汚くて、どす黒くって。
私の中の、醜い気持ちがどろどろになって。
息苦しくなって、カーテンを開ける。
そこには相変わらず綺麗な月が、先ほどとは違う角度で浮かぶ。
ほっとして、大きく息を吐きだす。
この形のお月さまをもう一度見られるときまでにはなんとかするから。
そう呟いて、毛布を頭までかぶせる。
月の光以外は何の光もない部屋の中、私は少しだけ軽い気持ちで眠りに入る。
明日はもっと、ましな気持ちで眠れることができると、そう思いながら。


4.23.2009update/10.2.2009再録
手を伸ばしたくなる20題 / Text/ HOME
template : A Moveable Feast