信者というわけでもないのに、いや、どの神の存在すらろくに信じてさえいないのに、なぜだかこうやって初詣にはやってくる。
それもこれも、もちろん晴香、が初詣に行きたいとそのかわいい口で告げるからだ。
恐らく、彼女の年齢ならば、こういう行事は親との楽しい思い出の一つとなるべき出来事だろう。
だが、彼女にはその親がいない。
実父はろくでなし。
母親は性格が悪いわけでも、晴香のことを疎んでいるわけでもないが、どちらかというと自分の恋愛より優先順位が低い。
必然的に、どういうわけか日本では家族団らんの率が高いと思われる、三が日すら、彼女は放置される年が多くなる。
その彼女をそのままにしておけるわけはなく、いや、どちらかというとそういうシチュエーションを逃すはずもなく、当たり前のようにして俺はこうやって晴香の手をひいて、近所の神社にまでやってくる。
さほど知名度の高くない地元の小さな神社なのに、いつもとは違ってあちこちに人の姿が見える。
けれども、テレビで見受けられるほどの混雑には見舞われることなく、余裕を持って晴香と鳥居をくぐる。
そういえば、クリスマスでケーキを食べて、除夜の鐘を聞いて、こうして初詣をしている自分たちはなんだろうな、と、知人と話していたことを思い出す。
俺としては、どんな神様でも、晴香を自分にくれるのならば、喜んでその神様を拝んでやるのだが。
気をつけながら石段を登る彼女を気にしながら、邪まな心を払おうともしない。
ここが聖域だとするならば、まっさきに排除されるべきは俺だな、と自嘲する。
誰が見ても、兄妹で、下手をすれば親子にすら間違えられかねない晴香との関係において、こんなことを少しでも思ってしまう自分は恐らく壊れている。
壊れてはいるが、直すつもりはさらさらない。
自覚して苦しんで、それでも俺は晴香を欲する気持ちを変えるつもりも、消すつもりもない。
かわいい財布から小銭を出し、真剣に賽銭箱へ投入する。
俺もそれに習って、とりあえず百円玉を放り投げ、適当に手を合わす。
ちらり、と、伺う晴香の真剣な表情に、思わずその願い事を聞いてみたくなる。
「内緒です」
さりげないつもりで聞き出せば、そんなことを言って、人差し指で唇に触れる。
その仕草に何がしかの衝動を感じてしまった自分は、本当に末期的だ、と思う。
彼女の願いのわずかにでも、俺が存在するといい。
そう願ったことは、やはり晴香にはまだ悟られてはいけない。
俺はこうやって、いつかは彼女を手に入れるのだから。
3.27.2009update/6.24.2009再録