18.かなしい、それともさみしい?
嬉しそうに報告をする男友達に笑いかける。
上手く笑えているのかわからなくて、チラリと窓ガラスに写った自分を覗き込む。
この人がこんなに饒舌だったなんて、知らなかった。

「聞いてる?」
「聞いてる」

本当は全く聞いてもいないのに、そう相槌をうつ。
再び嬉しそうに語り始めた彼、にこにこと笑顔で聞いている私。
外から見れば、私と彼はとても仲の良い二人、に見えるのかもしれない。
テーブル越しの距離で、これまでもこれからもそれが縮まる事はないけれど、それでもずっと私が彼の一番近くにいると安心しきっていた。
この距離を飛び越える勇気も無く、この距離を手放す潔さもない。

「良かったね」

適当に答えれば、ガタイのいい彼が、頬を染めながら照れる。
その仕草も今までには見たことも無くて、私は笑顔を保つことだけで精一杯だ。
大学のクラスメート達から窓ガラス越しに視線を送られる。
私と、彼がどういう風に噂をされているのかを知っている。
それが現実であったなら、と、なんども思いながらも否定してきた。
これからはきっと、あの視線に哀れみが含まれるような気がして、笑顔が曇りそうになる。
ポツリ、と、コンクリートの地面に水滴が吸い込まれていく。
空はあっという間に黒色を帯び、瞬く間に本格的な雨が降り始める。
慌てて彼は、帰り支度をして、伝票をひったくるようにして立ち上がる。

「わりぃ、あいつ傘持ってないんだわ」
「ん、気をつけて」

私も、傘なんかもっていないけど。
その言葉を飲み込んで、最後まで笑う。
慌しい彼の足音と、扉が閉まる音。ほう、っとため息を付きながら、私はようやく顔中の筋肉を緩める。
今の私はきっと、酷い顔をしている。
左手でほお杖をつき、写りこむ自分の顔を避けるようにして空を見上げる。
悲しいんじゃない。
何もしなかっただけの私がそんなことを思ってはいけない。
ただ、寂しい。
そう、私は男友達が離れていって、ただ寂しいだけだ。
もう一杯だけ、と、暖かい液体が注がれたカップにたっぷりとミルクを入れる。
徐々に柔らかくなっていく色合いを眺めながら、ため息をつく。
私は、寂しいのだ。
再び、胸の奥にある気持ちを封印する。
空からは雨が降りつづけている。
私が泣けない代わりに泣いてくれているようで、それでもやっぱり私はこんなところでは泣けなくて、コーヒーを口に含む。
暖かい液体とともに、何かが流れてくれればいい。
私はとても寂しい、ただそれだけなのだから。


10.9.2008update/2.6.2009再録
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