17.きれいな微苦笑
 困ったような顔をして笑ったあなたを、僕はたぶん一生忘れない。
転がり込むようにして部屋にいついて、次々僕のものが増えていって、それでも文句一つ言わずに僕をこの場にいさせてくれた人。
それを当たり前のようにして、甘えてしまったのは僕の方。
あなたのその優しさも、暖かさも、差し出されて当然だとばかりに享受することしかしなかった愚かな僕は、それが突然なくなってしまった後も、オロオロするばかり。
どうしてそうなったのかをわかろうともせず、ただ駄々を捏ねてばかりいた。
そんな僕を呆れた顔をして、だけれども諭すようにしてわからせてくれたあなたはもういない。
その最後の優しさに縋って、元に戻れないのかと足掻いてしまった僕は、やっぱり情ないまま。
突然隣がぽっかりといなくなってしまった空間は、前の部屋より格段に狭いのに広い。
あの頃から持っていた見慣れた食器も、寂しさを強調するようで、ただ途方にくれる。



「さようなら」

きちんと、最後に挨拶をして、綺麗な笑顔を作ったあなたを引き止めたくて、伸ばした右手は彼女の零れそうで零れ落ちない涙に遮られた。
これ以上一緒にいたら苦しくなる。
そう言ったあなたの心のうちは、今になってようやく痛いほどよくわかる気がした。
そんな顔をさせてしまった僕に、そんな風にさよならを言わせてしまった僕に、もう愛想は尽きるほど尽きたのだけど。
それでも僕は生きていく。
彼女のいないこの部屋で。
彼女のぎこちない笑顔だけを頼りに。


7.18.2008update/12.3.2008再録
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