あなた相手に感情をださないようにするようになったのは、いつ頃からなのか。
大人ぶりたい私と、素直な子どものままのあなた。あの日じゃなくとも、きっといつかは壊れてしまったのだろう。
結婚することになったと告げたときの、あなたの顔をはっきりと覚えている。呆然として、次には泣きそうになって、でも怒り出した。
そんな表情豊なところも大好きだったのだと、それを打ち明けるわけにはいかない。未練がましい思いがいまだに胸のあちこちに疼いているから。
私は大人で、あなたは子どもで、そんなことを言えば、もう二十歳は越えている、とそんな風に反論しそうだけれども、社会人と学生という溝は思いのほか大きい。まして私とあなたのような年の差で、ずっとそのままでいられるだなんて思うほうがどうかしている。
そう、私はただ待ちくたびれたのだ。
あなたのお母さんのヒステリックな電話に負けたわけじゃない。
周囲に当り散らしながらも、泣きながら縋ってきたあなたに、情が無いはずはない。
今でも確かに愛している。
でも、もうだめなのだと。
ずっとこのまま続けばいい、なんて御伽噺を信じられるほど純粋ではない私は、待ちくたびれて老婆になる前に退散することにする。
納得できなくて、だけれども自分ではどうしようもないことを突きつけられたあなたは拳を握ったまま。
その手を振り上げようともしないで、静かに二人の関係は幕を引きされる。
本当は、結婚するだなんて嘘なのだと、どれほど叫びだしたかったのかはわからない。
だけど、これからも繰り返される先の無い未来に、私が耐えられなかっただけ。
夢も現実もなにもかも無視して生きていけるほど、私は強くはないのだから。
酷い嘘を一つついて、私はあなたに憎まれることになるのかもしれない。甘美な思い出よりも強烈に、それが爪あととなってあなたに残ってくれるかもしれない。うっすらとどこかでそうなることを望んでいる自分が嫌になる。
だけど、ずるい私は最後までずるいまま。
心のどこかでずるいお願いをする。
どうか、私の事を覚えていてください、と。
10.1.2007update/2.21.2008再録