最初にそれをやったのはいつだったのかはもう思い出せない。
だけど、ふんわりとした暖かい記憶の中、まだ二人とも制服をきていたことを思い出す。
「どうしたの?」
考え事をしていた私に、彼が尋ねる。
その声音一つに、私は思わず酔いしれそうになる。
本当に、私はこの人が好きなのだと、わかっていたことなのに、改めてその思いを噛み締めてみたくなる。
出会いは、高校生の頃。気がつけばすでに片手では足りない年数を二人ですごしていることになる。
季節がめぐるたびに制服からそのとき流行の服装へ、また会社の制服へと変わっていったけれど、私の気持ちはあの頃のまま何一つ変わる事がない。
「そろそろ行こうか」
「うん」
お気に入りの店でランチを食べ、たいした目的も無く二人でウィンドウショッピングをする。
友達が聞いたら、そんなおもしろくもないデートで何が楽しいの?と言われてしまいそうだけど、その何気ない日常がなにより大事。
そっと、彼の手を掴み握り締める。
ずっとそこにある体温が嬉しくて、舞い上がりそうになる。
私は、いくつになってもこの人に惚れっぱなしなのだと、情ないような誇らしいような気持ちになる。
私は親と一緒に住んでいるため、そうそう外泊ができるわけじゃない。
だからこうして毎週のように彼の車で家まで送ってもらうことが習慣のようになっている。
もうじき、それが必要なくなるかと思うと少し寂しいような気がするのはどうしてだろう。
ブレーキを踏み、私の家の前で止まる。
するりと彼が私の頬に触れる。
それが、さよならのかわり。
いつ始まったのかなんてもうわからなくなってしまうほど昔からやっていた彼の癖。
この癖も、なくなってしまうのかと思うと、やはり少し寂しい。
小さくてを振って、彼が見ている中で門扉を開けて家の中へと滑り込む。
玄関の扉を開いて中へ入った頃、彼の車のエンジン音が再び聞こえる。
渋い顔をした父親と、やたらと嬉しそうな母親がいるリビングへと進む。
もうすぐ、私は彼と結婚する。
7.27.2007update/10.6再録