07.オトナの味を教えてあげる(大好き!シリーズ)
「美夏ちゃん、今度ここに食べにいこうよーー」

へらへらと、相変わらず我が家に入り浸っている兄さんは、きっちり叔母さんにも要注意人物扱いされている。まあ、私たちの年の差を考えれば、仕方のない事で、母親にしてみれば今までの信頼が一気に崩れ去ったおかげで、必要以上に警戒しているといえなくもない。自業自得だけれど。

「……、高校生が行くような店じゃないと思うんだけど」

学生だから詳しくは知らないけれど、そんな私の耳にも入るぐらいの人気高級レストランの紹介ページを指している兄さんに切り返す。 そういう店は、生来のお金持ちの子か、そうでなかったら社会人がいく店だと思う。私のように根っからの庶民が敷居をまたいでいい店じゃない。

「ええーーー、たまにはさ、すっごい着飾ってこういう店に行くのもよくない?」
「よくない」

着飾った後が恐い、というか、その服を脱がすことにしか興味がなさそうな兄さんが何を言うというかんじだ。

「それに、私こういうところっておいしいって思えないんだよね」

そう、悲しいことに、兄さんに高いお店に連れて行ってもらっても、味なんかわかったためしがないのだ。お寿司屋さんだって回っている方が、落ち着いて美味しく食べられる。

「そろそろ大人のデートも……」

言いかけたところで、たぶん大魔人のように仁王立ちしている母親の気配を感じて、口を噤む。

「っていうか、高校生だったら、適当にそのへん歩いて、カラオケしたりプリクラしたり、で、お昼はファストフードっていうのが似合うと思うけど?」
「じゃあ、それで」

私の右手を両手で抱え込み、哀願する犬のように縋りつく。
母はわざとらしくも私と兄さんの間に熱いお茶をおき、ついでに二人の間に割って入ってくる。

「門限は6時ですから」

ぴしゃりと言い放った母さんに、この世の終わりのような顔をした兄さんは、わかりやすすぎて、やっぱりまた母さんに警戒される。もう少し、下心というものを隠せばいいのに、と、そんなことになったらあっさりぱっくり食べられそうな自分が思ってどうする。

「そういうことで」
「なにがそういうことなわけ?」
「や、美夏ちゃんがお望みのデートをしましょうか、と」

懲りずに私の右手を両手でがっちりと掴み、お願いの光線を送ってくる。
母さんは、呆れたのかため息をついている。

「本当にそのプランだったら別にいいけど」

ぐっと力のこもった手は、あまりに真剣でやっぱり駄目だとは言い難くなる。

「本当だね、美夏ちゃん本当に本当だよね」
「まあ、それぐらい、だったら」

チラリと見上げた母さんは、にっこりと防犯ベルを右手で差し出している。これをもっていくのなら許すわよ、ということなのだろうか。 なんとなく、兄さんに丸め込まれたような気もしないでもないけれど、たまにはそれもいいか、と、大きく頷く。

「大人の味は、また今度、ね」

かわいく首を傾げながらそんなことを言ってのける兄さんは、また母さんにこれでもかと不信感を与える。
懲りないというか、兄さんらしいというか。
なんとなく、母さんの機嫌をとって、健全デートを許可してもらったのは私の気まぐれで、決して兄さんにどうこうなったわけじゃない、と思う。
こんなにも日曜日が待ち遠しいのは、そのためだけじゃない、ってイイワケをしながら。


6.16.2007update/9.8再録
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